獣害対策にICT 市が装置開発を公立大に委託
2024年08月16日 のニュース
京都府福知山市は、イノシシ、シカによる獣害対策の負担軽減をめざし、ICT(情報通信技術)を搭載したわなを地域で試験導入しているが、高額な通信費が負担になっている。課題を解決しようと、西小谷ケ丘の福知山公立大学情報学部の学生たちが、ランニングコストが低い装置の開発に取り組んでいる。
■過疎高齢化進む中で担い手不足の解決策■
ICTわなは、わな周辺を写す動画配信機能付きのカメラと、動物が檻や柵といった形状のわなの内側に入った時に、わなのとびらを遠隔操作で閉める通信機能がついたもの。市内では、市獣害対策モデル地区の三和町川合に2基、夜久野町直見に1基が試験導入されている。わなの作動は狩猟免許を持ち、市の許可を受けた市有害鳥獣駆除隊員が行う。
檻わな、柵わなの運用には、動物を誘い込むための餌まき、見回りといった活動が必要。餌まきなど、狩猟免許が必要ない管理を農区がしているところもあるが、これら全てを駆除隊員が行っているところが多い。最終的な捕獲は駆除隊員だけの仕事で、現在は213人が年間で約4千~5千頭のシカを捕獲している。しかし、隊員の減少、高齢化が進んでおり、今後について市は「現状が維持できるか分からない」という。
そこで、市は、餌まきといった管理は地域で、最終的な駆除は隊員-というように役割分担を進め、持続可能な獣害対策ができる仕組み作りのためにICTわなに注目。カメラで、見回り活動の負担が減らせるとし、過疎高齢化が進む地域での獣害対策の担い手不足の解決策、地域防除の要になると考え、設備の導入促進を検討している。
試験的に導入された地域では、対策にあたる住民らが、動物の姿をリアルタイムで観察できるため、実際に捕らえる姿を見たり、動物の状況を共有したりすることで、獣害対策への達成感や動機付けを高めることにもつながっている。
■課題は通信費の削減■
ただ、導入にかかる費用は国が半分を補助しているものの、設置後の通信費には補助制度が無。年間で1基につき約14万円かかり、現在は市が支払っているが、「行政としても負担が大きくなっている」という。
そのため、年間の通信費を3分の1程度にすることを目標に、4月に公立大学へ通信費を抑える仕組みの研究を280万円で委託した。市内には使われなくなって放置されたままのわながあり、開発した装置を取り付けてICT化することで、設置の初期費用を抑えながらわなの稼働数を増やしていく構想もある。
市は、わなによる捕獲時、駆除隊員への奨励金のほか、シカ3千円、イノシシ2千円のわな管理料を、管理状況に応じて駆除隊員、あるいは農区へ支給している。通信費が抑えられれば、農区がICTわなの維持管理をする場合でも管理料で相殺できるとして、「ICTわなを使った地域主体の獣害対策の水平展開ができれば」と期待する。
■山本教授と学生、役割分担して試作機■
委託業務は、狩猟免許を持つ公立大情報学部の山本吉伸教授が引き受け、ゼミ生で2年の海野紗綾さん、安永泰成さん、倉科空明さん、1年の関戸キビさんの4人と仕組みの開発を進めている。
5月から役割を分担しながら、プログラミングなどで仕組みを構築し、毎日のように放課後、それぞれの成果を持ち合って意見交換をしてきた。すでに試作機が仕上がっている。
カメラがわなに近づく動物を検知すると、事前に登録された住民ら管理者のLINEに通知があり、通知画面からアクセスするホームページで動画が見られる仕組みになっており、ホームページにわなを作動させるボタンも表示される。
市有害鳥獣駆除隊員がボタンを押すことで、わなに設置された装置が動き、止め具を外してとびらが閉まる。通信費の課題になっている「わな側からのインターネットへの接続」は、動物が来た時だけ通信するようにするなどの工夫で削減。映像の画面と実際の状況が数秒ズレることで捕獲に失敗することがあったが、開発装置ではズレを1秒以内に抑えられるように改良した。
チームの調整役を担う海野さんは「地域では獣害が本当に問題になっていると感じます。課題はまだありますが、役に立てるように頑張りたい」と熱意を燃やす。
■秋ごろから大江で実証実験■
学生たちは6月6日、市獣害対策モデル地区になっている大江町毛原を訪れ、実際に設置された檻わな、柵わなの見学をした。安永さん、関戸さんは「初めて見るタイプのものもあり、防水機能や強度などを考え、本物と同じ条件で装置が作動するようにしていきたい」と意欲を見せる。
秋ごろから毛原で実証実験に取り組み、今年度中には実用可能な装置を完成させる予定。山本教授(57)は「地域でのフィールドワークなど、普段の研究ではできない体験ができてありがたい。地域のニーズに応えていきたい」と話している。
写真(クリックで拡大)
・毛原のわなを視察する学生と山本教授(右)
・研究室で試作機の確認をする学生たち
・学生たちによる試作機、上部の装置が仕掛けを作動させる
・カメラからの動画を見ながらボタンを押すと仕掛けが作動する