安価な土壌水分センサー開発 福知山公立大の井上一成教授 従来品価格の10分の1に

2026年07月19日 のニュース

持続可能な農業めざして

 農業の現場などで使われる「土壌水分センサー」を既存製品の10分の1以下のコストで実現しようと、福知山公立大学情報学部の井上一成教授(64)が開発を進めている。高価な測定機器と同等の精度を確保しながら大幅な低コスト化に成功し、現在は府内外の農地で実証実験をしている段階。今後は収集したデータを潅水設備と連動させるなど、持続可能な農業を支える技術としての実用化をめざす。  

 土壌水分センサーは土の中にある水分量を測定する機器。農地に供給する水の量や適切な潅水のタイミングを判断するのに役立つ。

 センサーには複数の方式があり、現在の主流は「TDR(時間領域反射測定)方式」。土に挿した電極棒に電磁波を流し、その伝播時間などから水分量を算出するため精度が高い。一方で高価な部材を使用することから価格は数十万円に及ぶ。

 井上教授が安価なセンサーの研究開発を始めたのは、2024年秋。府丹後農業改良普及センターの職員から相談を受けたことがきっかけだった。

 職員によると、近年の猛暑の影響か、府内で栽培される黒大豆の収量が大幅に減少しているという。黒大豆は土壌水分20~30%程度が適しているが、水不足は見た目では判断しづらく、気付いた時には枯れてしまうケースも少なくない。

 適切な栽培管理には水分量の把握が欠かせないものの、高価な測定機器を導入できない農家も多く、安価で高精度なセンサーが求められていた。

 専門分野はネットワーク制御用プロセッサで、教員になる前は米国・シリコンバレーで業界の第一線にいた井上教授。農業に関わったことはなかったが、「何とかなるだろうと思い引き受けました。しかし、後から想像以上の苦労が待っていました」と振り返る。

試行錯誤重ね高精度と低価格両立

 まず取り掛かったのが機器のコスト削減。高価なTDR方式ではなく、部材費は安いが精度に課題がある「静電容量式」に着目した。試作を重ねたものの期待した精度は得られなかった。だが、電子回路を解析する中で問題点を特定し、独自の回路設計によって精度向上に成功した。

 これで万事解決-とはいかなかった。試作機を農地へ持ち込むと、想定していなかった課題に直面する。

 「理論は完璧だと思っていました。でも畑には電源も通信環境もなかった。よく考えてみれば当たり前のことですが、何でもそろっている研究室と農業の現場は違うと痛感させられました」と笑う。

 その後、ソーラーパネルや屋外用バッテリー、過充電防止用のコントローラーなどを組み合わせ、屋外でも安定稼働するシステムを完成させた。かかった材料費は数万円程度だった。

 実証実験に移ってからも期待どおりのデータが得られず、現地の土を大学に持ち帰って土壌解析を繰り返すなど開発は一筋縄ではいかなかったが、学生と試行錯誤を重ねながら改良を続けた。

 こうした地道な取り組みの結果、事前に土壌分析を行えばTDR方式と同等の精度で土壌水分を測定できるセンサーが実現。現在は府内外3カ所の農地で運用しており、水分量だけでなく、気温や湿度、日照値なども同時に計測できる。

小規模農家の力に技術で農業支える

 今後、センサーが取得したデータを基に自動潅水を行ったり、農地の温度管理に活用したりするシステムの開発も視野に入れる。

 「この研究を始めてから農地での活動が増え、研究室はいつも泥だらけ。昔の仲間に今の研究について話すと驚かれることもあります」と笑みを浮かべる。

 「シリコンバレーでは、技術力の高さを示すことがモチベーションの一つでした。でも今は違います。技術は簡単で安価、誰でも使えるものに価値があると考えるようになりました。難しいものは誰も使いたがらないですから」

 同大学へ赴任した頃は4人だった研究室の学生も現在は20人に増えた。「農業だけだとピンとこなくても、『農業×情報技術』となると興味、関心を持つ学生は多いと感じる。農業分野で若者は貴重な存在。今後も積極的に学生を受け入れ、一緒に研究していきたい」と語る。

 農業についても、「京都には誇るべきブランド農産物があるが、その多くは農家独自のノウハウで受け継がれてきた。しかし、それは放っておくと無くなってしまう可能性もある」と指摘。「大規模農家であれば高コストな設備を導入できても、京都に多い小規模農家は人も資金も足りないのが実情。そんな方々に私たちの研究が寄与し、持続可能な農業につなげられるよう研究に取り組んでいきたい」と意気込む。

井上一成教授 【略歴】
大阪府出身。横浜国立大を卒業後、国内大手電機メーカーに就職。米国・シリコンバレーを拠点にネットワーク制御用プロセッサの開発・事業化に従事。2011年から、教員として、前職明石工業高等専門学校で教鞭を執る。
24年4月福知山公立大学情報学部教授、26年4月から同学部長を務める。

写真上から(クリックで拡大)
・開発したセンサーで読み取った土壌水分量を解説する井上教授
・センサーを構成する部材
・電子回路を改良し、大幅なコスト削減につながった
・農地に設置したセンサー
・黒大豆の圃場には学生とともに何度も足を運んだ

このエントリーをはてなブックマークに追加
京都北都信用金庫
大嶋カーサービス

 

「きょうで満一歳」お申し込み

24時間アクセスランキング

著作権について

このホームページに使用している記事、写真、図版はすべて株式会社両丹日日新聞社、もしくは情報提供者が著作権を有しています。
全部または一部を原文もしくは加工して利用される場合は、商用、非商用の別、また媒体を問わず、必ず事前に両丹日日新聞社へご連絡下さい。