【敬老の日】福知山の元気なお年寄り(1) 99歳で能を続ける 加藤登志子さん

2023年09月16日 のニュース

 18日は、社会に長年貢献してきた高齢者を敬愛し、長寿を祝う敬老の日。これに合わせ、各分野で活躍がキラリと光る、元気な京都府福知山市内のお年寄りを紹介する。1人目は福知山市大呂の加藤登志子さん。

■“一歩”取り戻したすり足 99歳で能を続ける■

 日本の伝統芸能・能を現役で続ける福知山市大呂の加藤登志子さん(99)。20年ほど前に脳梗塞で足が思うように動かなくなったが、仕舞の動作を続けていくうちに回復して歩けるようになった。今でも元気に一人で階段を上がる加藤さんは、11月で100歳を迎える。

 加藤さんは東京で生まれ育ち、師範学校を卒業後、父の出身地である福知山に移り住んだ。教員時代は六人部、南陵、桃映中学校で音楽を担当。ブラスバンド部の顧問も務め、多くの生徒たちに音楽の楽しさを教えてきた。

 能を本格的に始めたのは60代のときで、初めは友だちの稽古に付き添っていたのが、気付けば自身ものめり込んでいた。謡曲専門で、音楽の知識を生かし、謡を譜面に起こしたりして勉強してきたという。

 転機が訪れたのは81歳のとき。いつものように稽古へ向かい、駐車場で車から降りた瞬間、右足に痛みが走り、力が入らなくなった。通院したが、床をはったり尻をつけたりして移動する生活が続き、「みじめで恥ずかしい思いだった」という。

 ある稽古の日、能を健康法として提唱する師匠の観世流能楽師の故・井上和幸さんから仕舞をすることを勧められる。「まったく歩けない老婆に向かって無謀な」と当時を振り返り笑うが、「ここから歩行を取り戻す一歩が始まった」。

 壁などに寄りかかりながら立つことから始め、毎日、仕舞の基本動作のすり足で1ミリ進むことを続けた。加藤さんは「次第に大腰筋など普段使わない深層筋(インナーマッスル)の力が目覚めるのが分かった」といい、足の親指と踵がしっかりと地面を捉えている感覚が脳に働き、全身が活性化していったと話す。

 仕舞の型の一つ「サシコミヒラキ」を、自宅の廊下で一日4セット以上繰り返し、わずか3カ月後には歩けるようになった。あまりのうれしさに「思わず万歳をした」。

 その後は、井上さんが長年主宰を続け、現在は娘の貴美子さんが引き継ぐ緑幸会が市内で開く月2回の稽古と謡曲・仕舞大会で舞を披露してきた。体力的に仕舞をすることは難しくなったが、謡曲は続け、今年5月には同大会のトップバッターとして「岩船」を張りのある声で表現した。

 加藤さんは、すり足を今でも毎日している。「お能はかけがえのない伴侶というくらいやめられない。お能への道はまだまだ。ずっと続けていきたい」。ゆっくりゆっくり一歩を踏み出す。

 

写真上から(クリックで拡大表示)
現役で能を続ける加藤さん
着物に身を包み舞台で謡曲を披露(94歳のとき)

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