大阪から福知山へ「孫ターン」でトマト農家に 夫婦でこだわり栽培
2019年03月04日 のニュース
大阪府から祖母が住んでいた京都府福知山市六十内に“孫ターン”で移り住み、3年前から夫婦で農業を営む「小林ふぁ~む」(小林加奈子社長)が、トマト作りに奮闘している。伸輔さん(55)と加奈子さん(51)夫婦が力を合わせ、こだわりの栽培と商品開発、販路開拓に努め、東京での大商談会での新製品コンテストで大賞を受賞、京都府が全国公募した女性起業家のプレゼン大会でも上位入賞するなど、活躍が目覚ましい。「福知山トマトを全国へ!」と、夫婦は声をそろえる。
トマト栽培の原点は、加奈子さんの幼少期にさかのぼる。六十内の祖母が作るトマトとチーズをすりおろして作るご飯の離乳食で育った。大きくなってからも祖母のトマトを食べることが楽しみだった。
いつか農業をやりたいとの思いを秘め、25年ほど大阪府堺市の自宅で学習塾をしていたが、「若いうちにやらないとできない」と45歳のころに一念発起した。
妻から農業をやりたいと打ち明けられた夫の伸輔さんは驚いた。システムエンジニア、海外バイヤーなど多彩な経歴を持っていたが、農業はやったことがなく、「え? 本当にやるの?」と目を丸くした。
加奈子さんに勧められて堺市内の農業塾に通うと、面白い発見ばかりで「はまりましたね」。脱サラして夫婦での新規就農への決意を固め、4年前に六十内に移住した。
小林ふぁ~むでは、畑は加奈子さん、田と商談は伸輔さんが受け持つ。
畑の主力はトマト。北海道大学農学部畜産学科卒の加奈子さんは、堆肥作りや力強い根の張りなど、科学的見地を取り入れた栽培技術と、無農薬で手塩にかける愛情をかけ合わせた「かなこ農法」を実践する。
甘くて酸味のある完熟トマト作りに汗を流し「まだまだ道半ばで、どんどん改良していきたい」と意気込む。
商談を一手に引き受ける伸輔さんは、昔取ったきねづかで「バイヤーの気持ちが分かる」。その人に合う交渉をと工夫し、トマト栽培に詳しい人には「『かなこ農法って何?』と食いついてもらうところがポイント」と力を込める。
特製ジュースで全国の市場狙う
トマトを全国に広めたいが、輸送時間による鮮度などの課題に気をもむ。そこで開発したのが特製ジュース「とまとのじゅ~す」。原材料はトマトのみの完全無添加で、委託する市外の福祉施設の加工技術により長期常温保存を可能にした。
720ミリリットルサイズで税抜き3千円と高価格な商品だが、2月に東京ビッグサイトで開かれた大商談会「グルメ&ダイニングスタイルショー」(ビジネスガイド社主催)の新製品コンテスト・ビバレッジ部門15点の中で大賞に輝いた。
来場バイヤーの投票結果を基に最終審査を行い、総評では「素材の味がしっかりと生きており、生産者の思いが伝わる」と高く評価され、その後の引き合いの追い風になっている。
京都府が女性の起業モデルを全国から募った第7回京都女性起業家賞に、加奈子さんが挑戦した。応募総数43件の中から、最優秀賞、優秀賞に次ぐ特別賞7つのうちの一つ、近畿経済産業局長賞に選ばれた。
最終選考に残った10組が1月末に京都市内での公開プレゼンテーションに臨み、加奈子さんは、栽培から商品開発、ブランディング、販売までを手がける個人トマト農家の総合企業化への展開、トマトを生かした福知山のPRにと熱弁をふるった。
小林さん夫婦は「これまでやってきたことが間違いではなかったと、認めてもらえたのかなと、うれしい気持ちです。これからも頑張っていきたい」と張り切っている。
写真=東京の大商談会で大賞になった「とまとのじゅ~す」を持つ小林さん夫婦
写真=かなこ農法で栽培した小林ふぁ~むのトマト