対照的な対局姿が印象的　「こども竜王戦」プロ棋士が観戦記

　京都府福知山市昭和新町の府立中丹勤労者福祉会館で8月27日に開かれた「夏休みこども竜王戦　福知山将棋大会」に、プロ棋士の島本亮五段が訪れ、決勝戦を観戦した。初段以上の実力を持つ子どもたちが集まったＳ級（無差別級）の様子を、プロの視点で振り返る。

　大会には、幼稚園から高校3年までの総勢84人が参加。Ｓ、Ａ（2級～初段）、Ｂ（初心者～3級）の3級に別れ、スイス式トーナメントで腕を競い合った。参加者多数のＢ級は2ブロックで実施し、Ｓ、Ａ両級は持ち時間各10分、一手30秒の対局時計を使った。

■Ｓ級の決勝戦島本五段が解説■

　Ｓ級の3戦全勝者同士、勝利した方が優勝を決める一戦をお送りします。

　先手は足立光佑君・福知山市在住の中学一年生で、対する後手は田中颯君・兵庫県西宮市在住の高校二年生。戦形は先手四間飛車、後手の天守閣美濃となりました。序盤の△9四歩（図1）が珍しい一手ですが両者共に深くとらえてはいない様子。

　先手は無視をするのもありましたが、少考したのち、無難に▲9六歩と受けました。二人の対局姿が対照的で、足立君は背筋が伸びて少し揺れながら、ほぼノータイム。田中君は前かがみが多く、少考しながら指し進めていますが10分30秒と短い対局で、少考がどう影響するか。それが顕著に表れたのが△6二銀（図2）の局面。手の流れからすると、△8二飛として千日手を狙うのが自然ですが、残り時間が3分の後手は躊躇した様子。

　先手はそこを狙って千日手歓迎だったようです。先手は意を決して▲4五歩と動きました。50手目の△5三銀で早くも秒読みの後手、先手はまだ時間を残しています。△3三桂では△3三角もありました。

　▲2五歩に対しても△同歩から受けに回るのも有力。勢い△8六歩から7五歩としたのに、△2五歩と手を戻すのは変調で、△8二飛とすべき。▲8八飛とすればそこで手を戻すのが勝りました。

　▲7八飛は疑問手で▲4七金なら先手良しでした。ここから後手が盛り返して、先手は▲4七銀引で秒読みに。△3六歩（図3）が緩手で△2六飛　▲3七玉　△3六飛なら4六の桂が外せて後手優勢でした。

　その後も△4八飛成で△4八銀なら詰めろで勝勢でしたが「▲2一角の筋がちらつき指しきれなかった」との感想。この寄せ筋を逃して先手勝勢に。「根比べ勝負で相手が力尽きるのを待っていた」との感想を残した足立君の勝利となりました。

　他Ａ級は福知山市在住の村尾礼さんが優勝。「諦めた時もあったけど、何とか踏ん張って勝てました。素直にうれしいです」。Ｂ級1クラスの優勝は兵庫県神戸市の脇田聖月君で小学二年生・Ｂ級2クラスは兵庫県姫路市の頃安海凪君で中学一年生でした。徳島・東京からの参加もあったようです。また、竜王戦福知山城対局後の週末に、「こども将棋大会」の開催を予定されているそうです。皆さんの参加をお待ちしています。

Ｓ級決勝戦の棋譜

先手：足立光佑
後手：田中颯
▲7六歩　△3四歩　▲6六歩　△8四歩　▲6八飛　△6二銀
▲1六歩　△1四歩　▲7八銀　△4二玉　▲3八銀　△3二玉
▲5八金左　△9四歩　▲9六歩　△5二金右　▲4八玉　△5四歩
▲6七銀　△2四歩　▲4六歩　△2三玉　▲3六歩　△3二銀
▲3七桂　△4四歩　▲6五歩　△8五歩　▲7七角　△4三金
▲5六銀　△5三銀　▲3九玉　△6二飛　▲2六歩　△7二飛
▲2八玉　△7四歩　▲6六角　△8二飛　▲7七角　△7二飛
▲6六角　△6二銀　▲4五歩　△5三銀　▲4四歩　△同　銀

▲4五歩　△5三銀　▲2二角成△同　玉　▲6六角　△3三桂
▲2五歩　△8六歩　▲同　歩　△7五歩　▲同　歩　△2五歩
▲同　桂　△2四歩　▲3三桂成△同　銀　▲4六桂　△3二玉
▲7八飛　△8七角　▲7七飛　△6九角成　▲5九金寄△7六歩
▲6九金　△7七歩成　▲同　角　△7五飛　▲4七銀引△8八歩
▲6六角打△7六飛　▲3五歩　△5五桂　▲5六銀　△7七飛不成
▲同　桂　△3五歩　▲7一飛　△3六歩　▲4八金　△2六角
▲3七歩　△同歩成　▲同　銀　△4七歩　▲同　銀　△同桂成
▲同　金　△4九飛　▲3九桂　△3七角成　▲同　金　△3六歩
▲同　金　△4八飛成　▲3八歩　△4九銀　▲2七角　△3八銀成
▲同　角　△4九銀　▲2七銀　△3八銀成　▲同　銀　△4九角　
▲2七銀打　△3五歩　▲3七金　△3八角成　▲同　銀　△3六銀　
▲2六角　△2五銀　▲3五角　△1五歩　▲3四歩　△同銀引　
▲同　桂　△同　金　▲5三角成△2五桂　▲4一飛成△同　玉
▲3一金まで足立君の勝ち。


写真上＝たくさんの子どもたちが競い合った
写真中＝Ｓ級で優勝した足立君（右）
写真下＝たくさんの子どもたちが競い合った