全面改築、花火大会事故、コロナ…市民病院16年けん引 香川院長退任

2021年09月30日 のニュース

 「命と健康を守り、信頼される病院」を基本理念にして、京都府福知山市の市立福知山市民病院を16年間にわたりけん引してきた香川恵造院長(73)が、30日付で任期満了を迎えて勇退する。就任期間中に病院全面改築、大江分院の開院、福知山花火大会屋台爆発炎上事故、新型コロナウイルス対応と大きな出来事を経験。香川院長に市民病院への思いを聞いた。

■医師確保に奔走 10年余で倍増■

 2006年の新病院(現施設)オープンに向け、基本理念を具現化するためのビジョンづくりに足かけ8年を費やした。「良質な医療を提供すれば、結果として利益はついてくる」。先義後利の精神を一貫した。

 「信頼される病院に欠かせないのが人材」と香川院長は繰り返す。

 教育に力を入れるとともに、地域救命救急センターの始動や最新手術ロボットの導入など病院機能の充実、高齢化社会に対応できる総合医の育成、院内保育所整備など働きやすい環境作りも進めた。医師数は10年余りで2倍の98人に増えた。

 手術件数、患者数とも好調で黒字決算を続けて病院の経営基盤は強固になった。

■4番打者はいらない チーム医療で自発性■

 市民病院ではチーム医療に重点を置いてきた。香川院長は「4番打者の名医が一人いても、できることには限界がある。その実力があるとかないとかではなく、うちに4番はいらない。その代わり、チーム医療でみんなが努力をして高めあっていける。みんなが1番、時には4番も果たせる。そんな一人ひとりの自発性が病院を成長させてくれた」と力説する。

 基本理念が職員に浸透していると実感したのは13年8月の福知山花火大会屋台爆発炎上事故の時。負傷者が次々と運び込まれて野戦病院と化した。盆休み中だったが、200人以上の職員が我先にと駆け付けた。「医療職だけでなく事務職の職員らの姿もあったことがうれしかった」と振り返る。

■コロナ1例目は職員 病院停止を事前即決■

 新型コロナの市内1例目の感染判明者は市民病院職員だった。2020年3月7日朝、職員がPCR検査を受けることになったと保健所から香川院長に連絡が入った。

 当時はコロナに関する情報が少なく、国内で病院内クラスター(感染者集団)が起きていた時期。病院幹部を緊急招集して、「職員が陽性だった場合、すぐに病院機能を停止する」と告げた。同時に感染防止対策を加速度的に進め、院内感染を2人にとどめることができた。

 市民病院はコロナ患者の受けれ入れをしており、これまでに重症者8人を含むコロナ患者約120人の治療にあたってきた。

■院内外に感謝 後進にエール■

 院長退任は現任期が始まる4年前に決めていたと明かす。院長として走ってきた16年間を「苦に思ったことは一度もない。仰ぎ見れば遥か、振り返れば一瞬」と語る。

 福知山医師会、市議会をはじめ、地域医療を守るために心を重ねてきた院外同志の存在も大きかった。「多くのみなさんに『医療は地域の財産』との気持ちを共有させてもらえたことはありがたかった。これからもお願いしたい」と感謝する。

 香川院長は10月1日以降も市民病院に残って診療にあたり、名誉院長に就任するが、後進に将来を託す。

 全850人超の市民病院職員に向けて「みんな頼りになる存在だと自負しています。次の世代へ病院のバトンを引き継いでいく素地は作れたかな。信頼される病院という幹があれば、これからどんどん変化していったら良い」と背中を押した。

【略歴】
 香川県出身。京都府立医科大学医学部卒、同大学大学院医学研究科博士課程修了。同大学第三内科助手、講師を経て1990年に国立福知山病院副院長、93年に市立福知山市民病院副院長、2005年から現職。16年から同大学特任教授。
 
 
写真上=インタビュー取材に応じた香川院長
写真下=16年院長を務めた市民病院

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