土門拳に倣い、村の一部になるまで通い続けて撮る 荒井俊明さん

2021年01月08日 のニュース

 昭和を代表する写真家、土門拳さんを顕彰する山形県酒田市による土門拳文化賞に、京都府福知山市の会社員、荒井俊明さん(68)が入賞した。「絶対非演出の絶対スナップ」を掲げ、徹底したリアリズムを求めた土門さんに倣(なら)い、被写体とした但馬の集落に通い詰め、自身も風景の一部となるまで地域に溶け込みカメラに収めた作品が、奨励賞を受けた。

 土門さん(1909~90)は報道写真や寺院仏像写真などで世界に評価された。『古寺巡礼』『筑豊のこどもたち』『ヒロシマ』など戦後日本の社会に大きな影響を与えた数々の写真集を出し、「激動の昭和にあって、そのレンズは真実の底まで暴くように、時代の瞬間を、日本人の現実を、そこに流れる日本の心を捉えた」(土門拳記念館)。

 功績を記念して1994年に始まったのが土門拳文化賞。今年で26回を迎えた。全国138人から145テーマの作品が寄せられ、大賞に相当する土門拳文化賞1点、奨励賞3点を選んだ。

 荒井さんはニコン愛好者によるニッコールクラブみやこ支部を創設し、支部長を務める。68回の歴史を持ち、プロ・アマが競い合う全国公募展「ニッコールフォトコンテスト」で、これまでに大賞3回。うち1回は全部門の大賞作の中で1人だけ選ばれる長岡賞を受けた。そんな荒井さんにして「土門拳文化賞は、難しい」という難関のコンテスト。

 天体が好きで、高校生のころから星空の撮影や現像をするようになった荒井さん。京都市の映像関係の会社に就職し、25歳のころから本格的に風景写真を始めた。福知山に戻ってからも、地元や遠出でカメラを構える。

 2009年のことだった。桜見物の帰りに、ふと立ち寄った兵庫県香美町余部の御崎(みさき)集落に心ひかれた。過疎高齢化の波が押し寄せる平家の落人集落だが、たまたま通りかかった荒井さんを、住民が笑顔で迎えてくれた。

 切り立った崖に貼り付くようにして並ぶ家屋。古くからの祭礼を大切に守る人びと。とりこになり、片道2時間を苦にせず毎月のように通うようになった。

 親しくしてもらった老夫婦の淡々とした暮らし、日常をテーマにしてシャッターを切る。「向けたカメラを意識されると、それは日常では無い」。空気のような存在になりたくて通い続けることで、自分も村人の一人、家族の一員のようになった。カメラを取り出さずに帰ったことも珍しくない。

 12年通ううちに、亡くなる人も相次いだ。生きること。生と死の日常と非日常を考えるようになった。葬儀の場にも同席を許され、カメラを持った。レンズを通し、一層強く生と死を考えた。

 連れ合いを亡くした後の家の中、ミシン台に眼鏡が置いてあり、おじいさんが、うつろに眺める姿を撮った一枚がある。カメラを意識されないまでになった、その場に自分が溶け込めたからこそ撮れたと思っている。

 応募作は御崎をつづったモノクロ30枚の組み写真。「寄り添って」とタイトルを付けた。審査員たちは作品から荒井さんの撮影過程をくみ取り、「誠実に、丹念に編まれた庶民史でもある」と評した。

 土門拳文化賞は来年3月7日に授賞式、前日から4月18日まで受賞作品展が、酒田市の土門拳記念館で開かれる。
 
 
写真上=受賞作「寄り添って」(30枚組み写真の1枚)
写真下=荒井俊明さん。地元福知山の自然にもカメラを向ける

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