高齢者に訪問介護ならぬ“訪問蚕” 時間を忘れて思い出話
2021年07月15日 のニュース
かつて京都府福知山市などで盛んだった養蚕の文化継承を行う蚕業遺産研究会の吉田武彦さん(62)=水内=が、地域福祉の一助になればと、訪問介護ならぬ“訪問蚕”と称した活動を実験的に始めた。市内の高齢者たちの交流の場に蚕や繭を届けて、懐かしい思い出話に花を咲かせてもらうのがねらいという。
吉田さんは、三和中学校で社会科の教員をしていたころ、三和町内でもかつて養蚕が盛んだったことから、「歴史の教科書で生徒たちに養蚕を教えているが、まずは自身が実体験することが大事」と思い立ち、2017年から学校で生徒たちと一緒に蚕を育て始めた。
それから毎年、衣笠繊維研究所理事の廉屋巧さん=大江町金屋=や養蚕農家の桐村さゆりさん=下天津=から蚕を提供してもらったり、育て方のポイントを教わったりしながら育てている。
昨年は、蚕業遺産をテーマとしたフォーラムのパネリストらで、養蚕文化を次世代へ継承する方法を探る「蚕業遺産研究会」を発足させたほか、蚕具の収集・保存活動をする。
訪問蚕の取り組みを知ったのは昨夏。同研究会のメンバーとともに、養蚕業の復活プロジェクトに取り組む兵庫県養父市を視察した時だった。高齢者たちのもとに蚕を持っていって交流を深めていると聞き、「蚕を福祉に生かせるのでは」と、実験に踏み切った。
蚕は飼育箱の中に入れると外に出ることはなく、また手をかむこともないので、けがなどの心配がいらないため、高齢者のもとに持っていきやすいという条件もあった。
6月上旬、三和町友渕の交流の場「すこやかサロン」を運営する森脇和美さん(62)の協力を得て、実験を開始した。第1回には70代、80代の男女4人が森脇さん宅に集まった。
吉田さんが体長7センチほどの蚕120頭を自家用車で届けると、参加者たちは、農家を助けた大切な副業であったことや、まだ夜が明けないうちから餌になる桑の葉を取っていたこと、住み込みで養蚕農家の手伝いに行っていたことなど、懐かしい話が絶えることなく続いた。
森脇さんは「6月中に計4回、サロンのメンバーが少人数制で蚕や繭を見ましたが、みなさん時間を忘れて昔話に盛り上がっておられました。高齢者にはいろんな関わりが必要。この取り組みは良いですね」と話す。
吉田さんは「蚕は扱いやすく、子どもから高齢者まで様々な世代の人から反応があるところが良い。教育、福祉、国際交流など、養蚕の可能性を今後も追求していきたい」と話している。
写真(上から)=自家用車で蚕を届ける吉田さん
写真=体長7センチほどに成長した蚕
写真=繭を作り始めた蚕
写真=森脇さん(右)の協力を得て訪問蚕に取り組んだ