「全国の演劇高校生が憧れる」 豊岡に芸術文化専門職大学

2023年08月05日 のニュース

■兵庫県立、実習に800時間■

 但馬初の4年制大学、芸術文化観光専門職大学(CAT)が、福知山市の隣、兵庫県豊岡市に開学して3年。「地域を笑顔にする大学」を掲げた兵庫県立の大学で、実習を中心にした個性的なカリキュラムが組まれている。日本の演劇界を代表する一人、平田オリザさん(60)が学長に就き、週に最大6コマの授業も受け持つとあって、全国から若者たちが集まっている。

 「専門職大学」という言葉は、まだ馴染みが薄い。特定の職業のプロフェッショナルになるために必要な「知識・理論」と「実践的なスキル」の両方を身に付けることのできる、新しい大学のことで、2019年度に制度が始まった。授業の3分の1以上は実習・実技にあてることになっている。

 CATは一般教養、専門科目の座学に加え、実習時間を800時間組み、4年間で「芸術文化」と「観光」を学ぶ。

 芸術文化の分野では芝居のイロハから、ダンス、舞台装置の使い方、大道具・小道具の作り方、脚本の書き方、企画・プロデュースの方法など。演劇・ダンスの実技が本格的に学べる大学は国公立で初めてだという。

 もう一つの観光分野では、城崎温泉、神鍋高原はもとより、都市部も含めたホテル、大阪国際空港や鉄道会社といった交通機関、レジャー施設などの協力を得て実践的な授業を重ねていく。昨年も老舗ホテルで1カ月の宿泊業務実習、空港のカウンター業務などを体験してきた。

 芸術文化、観光の一方だけでなく、両方学ぶのも特徴。平田学長は「芸術文化と観光って、実は一体的なものなんです。日本ではアートは文科省、ホテル・交通は国交省に分かれてますが、海外は同じ省庁なんです」と説明する。

■学長は日本を代表する劇作家、平田オリザさん■

 大学には世界で活躍するアーティストや、観光ビジネスをけん引してきた一線の実務家ら、様々な教員が名を連ねるが、知名度はなんといっても平田学長が高い。劇作家、演出家で、2006年にモンブラン国際文化賞を受賞。11年にはフランス文化通信省から芸術文化勲章シュヴァリエを受勲した。

 但馬に縁があったわけではないが、たまたま講演会で豊岡を訪れた際に、市内施設の運用方法について助言を求められたのをきっかけに、豊岡を演劇のまちにと協力をするようになり、19年に豊岡へ移住。主宰する劇団「青年団」の活動拠点も豊岡へ移した。

 「5年でアジア最大級、10年で世界有数の演劇祭に」と豊岡演劇祭をスタートさせ、今年9月14日から10日間にわたって開く演劇祭はフリンジ(公募)に参加する劇団が200を超え日本最大規模になっており、「アジア最大」が視野に入ってきた。小中学校を回っての、子どもたちに演劇的手法を取り入れたコミュニケーション教育の授業にも取り組んでいる。

 こうした素地を生かしての大学設置だが、「演劇が学べる大学を作って豊岡に若者たちを呼び込もう」と声をかけはじめたころは「だれも実現できると思ってくれなかった」と振り返る。

■初年度は倍率7・8倍 周辺市からも定員増の声■

 それでも動きは速く、但馬地域の振興策としても有効だとして兵庫県が県立大学として運営していくことになり、2019年に認可申請。翌年11月に認可が下り、定員80人で募集を開始。たちまち全国から志願者が集まり、志願者倍率は7・8倍に。高い競争を勝ち抜いた1期生たちを21年4月に迎え、新しい大学の新しい歴史が始まった。

 今春の3期生も志願者倍率は4・6倍。スタートダッシュに成功し、「全国には演劇部のある高校だけでも2千校。演劇をやってる全国の高校生たちが憧れる大学になっています」と平田学長。豊岡周辺の自治体からも定員増を求められるようになり、大学院設置の声も出て来た。9月からは、海外からの交換留学生たちも本格的にやって来る。「国内だけでなく、これからはアジアの若者たちが憧れる大学にしていきます」

■広くアジアを視野に「北近畿の回遊性を」■

 アジアはCATにとって大きなキーワードだ。芸術文化と観光を一緒に学ぶ理由が、そこにある。「北近畿にインバウンド客を呼び込む。中国や韓国などアジアの富裕層に滞在してもらうんです」と平田学長は説明する。1週間、2週間と滞在してもらうには物見遊山だけでは足りない。そこで「昼はスポーツや体験活動を楽しみ、夜は上質な演劇、ダンスなどを楽しんでもらい、リゾート地としての回遊性を高める」ことを提言。そのための基幹となる人材を育成していて、幹部候補を渇望している地元観光業界が熱い視線を注ぐ。

 「幸いにして北近畿は食に関しては非常に優れている。次は体験と芸術文化ですよ。そして城崎と天橋立はライバルでは無いんです。海外からの誘客を考えるならライバルは北海道、沖縄。兵庫北部と京都北部は行き来して一緒に楽しんでもらう地域なんです」といい、「実際、豊岡演劇祭の期間中、豊岡のホテルは満室で、周辺部や、福知山のホテルも斡旋をと考える段階に来ている」と明かす。

■理論も実技も-白熱の授業■

 ある日のキャンパス。午後4時30分から2時間の演劇関係の授業。学生たちが自分で選び調べてきたテーマについて、スライド、レジュメを用意して順に発表に立つ。一人はノルウェーの作家、ヘンリック・イプセン(1828-1906年)の作品「ゆうれい」について。「人形の家」に次いで上演された作品で、当時、社会問題作として世界に影響を与えた理由を、独自の解釈で説いていく。「とても寂しい」作品だとの感想も述べ、ほかの学生たちが質問を重ねていく。

 その後、学生が「さびしい」と感じた理由を平田学長が、海岸線が深く入り組むフィヨルドにより集落が孤立しているノルウェーの地理的要因を挙げて補足。更に欧州の歴史的背景を踏まえて、イプセンの技術論を分かりやすく解説した。

 二人目の学生は、舞台「黒子のバスケ」「文豪ストレイドッグス」などを手がけた演出家・劇作家の中屋敷法仁さんをテーマにした。中屋敷さんが脚光を浴びるきっかけとなった全国高校演劇大会での最優秀創作脚本賞受賞から説き起こして中屋敷論を展開したのを受けて、平田学長は演劇大会に審査員として参加していた舞台裏を紹介。学生たちをわかせながら、中屋敷作品への理解を深めさせていった。

 中屋敷さんを調べた尾崎元海さん(3回生)は滋賀県出身。高校で演劇部に在席し、文化祭などの運営に熱中して「将来につなげていけないか」とCATへ進学した。「舞台設備が整っていて、学ぶには最高の環境。来て良かったです」と話す。

■校内に劇場、スタジオ 夜10時まで学生に開放■

 校内には照明・音響機器を整えた2階吹き抜けの講堂兼劇場、ダンスのスタジオ、大道具を作る実習室、トレーニングルームなど様々な施設があり、学生たちが授業やサークル活動などに活用。午後10時まで使えて、夜になっても校内は活気があふれていた。

 木の大階段が印象的な学術情報館(図書館)は地域にも開放されていて、高校生たちが電車待ちや自習にと「まちの図書館」のように、ごく自然に利用している。

 キャンパスは豊岡駅近くの豊岡市山王町。電話0796(34)8123。

 

写真上から
・豊岡駅に近く山陰線からよく見える芸術文化観光専門職大学
・学内の劇場
・「アジアが憧れる大学にする」と話す平田学長
・隣接する学生寮
・老舗ホテルでの実習
・平田オリザ学長も週に最大6コマの授業を担当する
・学術情報館

このエントリーをはてなブックマークに追加
京都北都信用金庫
大嶋カーサービス

 

「きょうで満一歳」お申し込み

24時間アクセスランキング

著作権について

このホームページに使用している記事、写真、図版はすべて株式会社両丹日日新聞社、もしくは情報提供者が著作権を有しています。
全部または一部を原文もしくは加工して利用される場合は、商用、非商用の別、また媒体を問わず、必ず事前に両丹日日新聞社へご連絡下さい。