過疎高齢化進み、「スマート農業」に活路 牧の生産法人がGPS搭載農機具導入
2020年03月09日 のニュース
科学技術の進歩とともに、農作業も変革の時代を迎えた。京都府福知山市牧の農業生産法人、株式会社味歩里(桐村正典社長)は、今年から情報通信などの最先端技術を活用したスマート農業に取り組む。すでにGPS(全地球測位システム)を搭載した農薬散布用ドローンと田植え機を購入しており、水稲や小麦栽培で利用する。ともに精度の高い農機具で、省力化だけでなく、一層の品質向上につながることを期待している。
味歩里は、高齢化で離農農家が増えるなかで下川口地区の農業を守るため、2007年に地元出資により設立した。現在、設立当時の6倍にあたる約34ヘクタールで、水稲のほか、小麦、小豆、キュウリ、ネギ、ダイコンなどを栽培する。次世代型のスマート農業を取り入れることを決めたのは、社員の高齢化対策や後継者育成などの課題解決のため。府スマート農林水産業実装チャレンジ事業の補助を受けて、2台の農機具をJA全農京都を通じて導入した。
■ドローン散布で手作業の50倍効率■
ドローンは、8枚のローターが付いた直径約1・5メートルのもので、フレームアームを折り畳むと、軽トラックでも運搬できる。装備したタンクに10キロの液体や粒状の肥料を搭載可能。10分間で約1ヘクタールの散布ができ、同社が使っている散布装置「ブームスプレーヤー」の2倍、手作業の50倍ほどの作業効率になる。
ミリ波レーダーを装備し、一定の高さ、速度で飛び続けることができ、小回りが利くため段差などの影響も受けずに農地の端まで均一に散布できるという。
JA全農京都北部農機事業所の松山仁志さんは、業者が毎年期間を設定し、ラジコンヘリコプターで実施している薬剤散布と比較。「ラジコンヘリを依頼した場合は、悪天候で作業がしばらく延期されるケースがある。タイミングを逃すと手遅れとなり、病害虫が発生してしまう。ドローンは求めやすい値段で、ヘリコプターのように操縦は難しくない」と魅力を話す。
味歩里では、一般社団法人農林水産航空協会の産業用マルチローターオペレーター技能認定証を取得した塩見寿人総務部長が操縦する。4、5月に小麦の赤カビ病を防ぐための殺菌をし、8月上旬には、米粒に茶褐色の斑点が残る「斑点米」をもたらす原因となるカメムシ防除の薬剤散布をする予定。
■ステアリングを自動補正し、一直線に苗植え■
田植え機は、GPSを搭載した乗用型の6条植えで、苗を植えながら、肥料や除草剤を散布できる。GPSの位置情報を元に植え付け位置を補正しながら、設定した株間で一直線に苗を植え付けることができる。肥料も設定した量を均一に散布可能で、運転席に備えた液晶パネルで、機械の状態や作業の設定を確認。農地の端でのUターン時には、進行方向がずれると警告表示され、ずれを自動で補正するという。
桐村社長は「ステアリングを自動で直進方向に補正する機能があるため、作業を中断することなく、運転者が苗の補充もできて便利。苗取り量や植え付けの深さ、施肥量まで簡単に設定でき、作業が随分楽になると思う」と話し、「既存の田植え機と並行して使い、効果を確認したい」と作業の日を楽しみにしている。
田植えは5、6月に予定している。
■コンバインなども導入予定■
同社が生産するコシヒカリは16年、「皇室献上米」に選ばれ、天皇陛下の元に届けられた。さらに昨年6月、市場や学校給食用などに出荷する京野菜の九条ネギが、国際水準の安全認証「ASIAGAP(アジアギャップ)」を取得するなど品質の高さには自信を持つ。
桐村社長は「地域は高齢化や後継者が不足して耕作放棄地が増え続けている状態。事業所の雇用年齢の引き上げが進むと、農業離れは一層進むだろう。スマート農業はこれらの問題をある程度解決してくれると思う。省力化や労力の軽減はもちろん、均一な施肥などで品質が高い農作物の収穫が期待できる。今後、GPS搭載のコンバインやトラクターも導入したい」と話す。
初期投資は大きいが、補助制度もあり、「それに見合うだけの利潤を生み出すことができると思う。農業に関心を持つ若者が増え、魅力ある産業になるとうれしい」と意欲をみせる。
写真上=均一の高さ、速度で薬剤散布をしながら飛ぶドローン
写真下=頭上前にGPS装置の付いた田植え機を運転する桐村社長