洋裁一筋70年 「毎日楽しくて仕方ない」熟練の技で仕事依頼は絶えず 牧の中井靖子さん
2025年02月25日 のニュース
自分が大好きなことを仕事にできるのは理想だが、継続するのは容易ではなく、周囲や社会が必要としてくれなければ成り立たない。こうした条件を満たし、長く続けられる人は決して多くないが、洋裁師の中井靖子さん(87)=京都府福知山市牧=はその一人。洋裁を始めて70年が過ぎた今も、仕事の依頼は絶えることがない。
中井さんが洋裁の道に入ったのは1953年(昭和28年)。日本でテレビ放送が始まった年で、南陵中学校を卒業した中井さんは、当時人気だった洋裁を学ぼうと舞鶴市内の洋裁学校に入った。
その後、福知山の白鳩洋裁学院の師範科に移り、計3年間学んで洋裁師の民間資格を取得。18歳のときにさとうの洋裁部門の従業員として採用され、22歳で結婚したあとも、しばらくは市職員の夫と一緒に牧の自宅から市街地まで自転車で通った。
この間に洋服の仕立ての基礎的な技術を習得。32歳で独立し、自宅敷地内に木造平屋建ての仕事場(16・5平方メートル)を建て、各洋品店から洋服の裁断や仕立ての仕事を請け負ってきた。
仕事で使うのは裁縫台(横1・7メートル、縦1・2メートル)とロックミシン2台、工業用ミシン1台、アイロン2個だけ。この仕事場で洋服の仕立てや仕立て直し、和服から洋服へのリメイク、既製品の背広の袖上げやズボンの寸法直しなどをする。
洋裁師は縫うことだけでなく、型紙を作って裁断し仮縫いする。「型紙で使うのは読み終えた新聞など」といい、客のさまざまな体型に合わせて型紙を作り、立体的に仕上げていく。
「洋裁の奥深い世界に魅了されました」と語る中井さんは、70年余り打ち込んできた洋裁の仕事が「毎日楽しくて仕方ない」と笑う。ただ、社会は移り変わって、昔たくさんいた洋裁師は一人減り二人減りして、気がつけば貴重な存在になっていた。
近年は古いものをアレンジして作り直す「リメイク」が人気で、和服を洋服に作り直す人が増えている。「親に買ってもらった思い出の着物を捨てたくないし、もう一度着てみたい」という注文は引きも切らず、中井さんの手を求める声が舞い込んでくる。
写真(クリックで拡大)=着物をリメイクした作務衣や寸法直しの完成品に囲まれて(牧の仕事場で)