生かしきれない観光施設 福知山市長選を前に・下
2024年05月31日 のニュース
任期満了に伴う京都府福知山市長選挙は6月2日に告示され、現職と新人2人の三つどもえの争いになるとみられる。人口減少による生活環境の変化、コロナ禍後の地域活性化、農林業や経済の振興、老朽化したインフラの整備など、福知山市が抱える課題が山積する中、まちづくりのリーダーに誰を選ぶのか。人口減少▽公共交通▽観光振興の3課題を追った。
■5月連休に利用者ゼロ■
京都府福知山市は商工業分野では、兵庫県北部を含む北近畿の中心的存在だが、こと観光面では、いまひとつ振るわない。観光資源が無いわけではないのだが-。
2023年の福知山市への観光入込客数は94万人で、地域別にみると、旧市内は77万人。福知山城を築いた明智光秀を主人公にしたNHK大河ドラマの影響で増加した19年の74万人を超えた一方、旧3町への観光客はコロナ禍からの復調が鈍く、地域格差が生じている。
大江町北二の観光・文化施設「あしぎぬ大雲の里」はかつて多くの人が訪れたが、今年のゴールデンウィーク(4月27日~5月6日)期間中の利用者は0人。運営形態が2022年4月から市直営に変わって事前予約制となり、広い駐車場の入り口には普段、カラーコーンとバーが置かれている。
由良川沿いの高台に位置するあしぎぬ大雲の里は、旧大江町が、大江山と並ぶまちの資源・由良川に軸足を移して、流域の歴史、文化を生かして地域の活性化を図ろうと整備したもの。
旧平野銀行を開設するなど、同町北有路地域の経済、文化の振興に貢献した平野家から寄贈を受けた旧邸宅(1909年建築)を大雲記念館として95年に改装。伝統的な和風建築様式を基本にしながら、一部に西洋建築であるキングポストトラス(洋小屋)方式を採用した近代和風建築の先駆けとなる建物で、歴史的、文化的、建築学的に大きな価値を持ち、京都府指定有形文化財となった。
その後、大雲記念館の隣に宿泊できる大雲塾舎、レストラン鬼力亭が整備され、99年にグランドオープン。旧町の直営を経て、市町合併後も含めて長らく第三セクターの大江観光が指定管理者制度で請け負って運営。歴史的建造物の風情を生かし、和装での結婚式前撮り撮影会や着物展の開催、会食会場などとして利用されてきた。
市によると、2017年のピーク時は年間2万6065人が利用したが、22年は大雲塾舎の宿泊、レストランが休業し、コロナ禍もあって2383人まで落ち込んだ。そこで、市は23年に利用促進とにぎわいづくりにと、官民連携の実行委員会を結成し、マルシェ「大雲一畳市」を開催したが、それでもこの年は563人とさらに悪化した。
■「もったいない」と住民が奮起■
この状況を見て、「立派な施設なのにもったいない。活用しないのは大きな損失だ」と奮起する地元住民たちがいる。大雲一畳市の実行委員長(74)は大雲記念館の観光資源としての魅力を確信し、「茶室を生かしたお茶会や着物の着付けができる体験型観光ツアーを企画し、舞鶴湾に入港した豪華客船の外国人を呼び込みたい」と構想を膨らませる。
「大江町は自然がきれいで田舎の良さがあり、大雲の里のほかにも、大江山の鬼伝説や雲海、元伊勢三社、和紙伝承館など観光資源がたくさんある」とまちの魅力を語る迫田さん。ただ23年の大江地域への観光入込客数は9万人と、コロナ流行前の16万人(18年)の6割にとどまる。
■観光と地域づくり 両輪の成長を■
海の京都DMOの観光地域づくり戦略改定委員会で座長を務めた福知山公立大学の杉岡秀紀准教授は、「観光のプロではない行政職員が担当に就くことが多いため、観光施設は基本、行政の直営よりも、公民連携や、民間主導の仕組みをいかに作って行政が下支えするかというのがポイント」と話す。加えて、「キーワードは『観光地としての成長と地域づくりとしての成長の両輪』。良い資源がありながら、結果につながらないのは仕組みの問題かもしれない。まだまだやれることはあるのでは」という。
あしぎぬ大雲の里のように、日の目を見ない潜在的な観光資源は福知山市内にほかにもある。そういった資源の魅力をどのように引き出し、活性化を図っていくのか、観光客を呼び込む別の方法があるのか。今後のまちづくりの課題としても市の観光戦略のあり方が問われる。
市長選は6月2日告示、9日投開票。
写真(クリックで拡大)=カラーコーンが置かれた「あしぎぬ大雲の里」