姿消す公共交通 福知山市長選を前に・中
2024年05月30日 のニュース
任期満了に伴う京都府福知山市長選挙は6月2日に告示され、現職と新人2人の三つどもえの争いになるとみられる。人口減少による生活環境の変化、コロナ禍後の地域活性化、農林業や経済の振興、老朽化したインフラの整備など、福知山市が抱える課題が山積する中、まちづくりのリーダーに誰を選ぶのか。人口減少▽公共交通▽観光振興の3課題を追った。
「バスが無くなったら、病院には、よう行かん」-。京都府福知山市北端の北陵地域と市街地を結ぶ路線バス・丹海バスの福知山線が廃止されることが発表され、地域で暮らす80代の女性は肩を落とす。
福知山線は平日の朝、昼、夕の往復6便運行。しかし今年2月、運行会社が6月から昼の2便を減便して往復4便にし、来年3月末をもって路線を廃止する方針を公表した。
女性は、3カ月に一度、市立福知山市民病院へ行くために丹海バスを利用。朝の便で病院へ通い、診察が終われば周囲を歩き、昼の便で帰宅する。
「(減便される6月以降は)診察が終わってから夕方までどこで何をしたらいいのか。歩き回るのもくたびれる」と不安を口にし、廃止されると診察も諦めざるを得ないと考えている。
一方、地域では2022年12月から北陵地域振興協議会が、市街地と結ぶ「乗り合いタクシー」の実証実験に取り組んでいる。市内のタクシー運行事業者と協力し、事前予約制で毎週金曜日に走らせ、要望があれば平日なら別の曜日でも構わない。発着点や発車時間が決まっているなどの条件はあるものの、利用料金は市の補助を活用して、通常のタクシーと比べるとかなり安価に抑えられている。
住民の高齢化が進む中、生活に欠かせない交通手段の確保のためだが、昨年4月から今年3月末までの利用者は延べ42人と想定より少ない。地域振興協議会の事務局長(60)によると、「タクシーに一人で乗るには気が引ける」といった意見が聞かれるという。「車や運転免許証を持たない高齢世代の人が地域にたくさんおられますが、タクシーを使うことはハードルが高いようです。利用者が増えるようにするためには、意識改革をしないといけない」という。
■通学・通勤に若者も困惑■
若い世代も困惑している。与謝野町から通学で利用している京都共栄学園高校2年の男子生徒は、自宅近くのバス停から福知山線に乗り、共栄高校前まで乗車する。平日のみの運行のため、土曜日に授業がある場合は、自宅から車で5分ほどの京都丹後鉄道の駅から乗車し、福知山駅で下車する。到着時間の関係でバスの場合は始業時間に余裕を持って登校できるが、鉄道の場合は福知山駅から早歩きで学校へ向かわないと間に合わない心配がある。
「当たり前にあると思っていたので、バスが無くなることに実感がない。受験の年に環境が変わるのでつらいです」
勅使のカフェレストラン&ベーカリー・あまづキッチンで働く女性(26)は、体が不自由で知的障害がある。市街地から通っており、「障害があっても公共のバスを使って仕事に行けることが喜びです。電車だったら、駅の階段を上るのが大変。バスの運休日は、親の送迎やタクシーを使ったりしていますが、無くなると困るのでバスを残してほしい」と切実だ。
■事業者も悲痛な声■
地域の公共交通を担う路線バスを巡っては、運転手の労働時間の規制が強化される「2024年問題」を受け、過疎地、都市部に限らず日本全国で減便、路線廃止が相次いでいる。
2月と5月に開かれた福知山市地域公共交通会議。丹海バスを運行する丹後海陸交通(本社・与謝野町)の担当者は、減便・廃止の理由について運転手不足を挙げ、退職意向者に短時間勤務での依頼をして会社に残ってもらうなど運転手確保に努めたが、抜本的な解決の見込みは厳しいとの見解を示し、減便・廃線への理解を求めた。
出席していた近畿運輸局京都運輸支局輸送・監査部門の首席運輸企画専門官は「『バスを利用しさえすれば地域公共交通を維持できる』という次元の話ではなく、(終業時間から次の始業時間まで最低でも11時間の休息時間を確保する)勤務間インターバル制度などバスの運行維持ができないような状況が、かなり深刻になっている」と現状を説明。「一朝一夕では解決できない。仮の話として、『もしバスが無くなったらどうするか』をそのときが来たときに考えるのではなく、『無くなったらどうしたらいいか』を日ごろから少しずつ考えていくことが非常に大事だ」と投げかけた。
市内には自主運行バスや交通空白地有償運送事業などがある。今ある交通手段の維持や、新たに出てくる交通空白地での対策が急務となっている。
写真(クリックで拡大)=地域唯一の公共交通・丹海バスが北陵地域を走る