“ハンコが悪い”風評被害懸念 政府方針の押印廃止に老舗店主が吐露「文化を大切にしたい」

2020年10月15日 のニュース

 政府が掲げる、行政手続き上の不要な押印の廃止方針に、気をもむ人たちもいる。「『ハンコが悪い』との風評被害が起きないかが怖い」。京都府福知山市でハンコを作る老舗店主が胸の内を明かす。

 内記二丁目にある田中畊石堂。今年3月で創業100周年を迎えた。3代目店主の田中秀和さん(58)は、河野太郎・行政改革担当相が押印廃止に言及した9月23日の報道に驚いた。

 その後、全省庁を対象にした押印廃止に向けた聞き取り調査が進み、政府方針に同調する地方自治体の動きも活発化している。福知山市は「整理すべきことはあるが、押印廃止に向けて取り組んでいくことになる」との姿勢を示す。

 行政先行で民間にも押印廃止の動きが広がり、ハンコ需要の減少につながりかねないとの指摘はあるが、田中さんは「(安価な)三文判がどこでも買える時代。需要減は今に始まったことではない」と冷静に受け止める。「市民サービスの向上につながるのならば、三文判で済むような行政手続き上の仕組みがなくなっていくことは仕方がない」と続ける。

 しかし、気がかりなのは連日のように飛び交う「ハンコ廃止」の文字を見たり聞いたりすることだという。

 河野行革相は自身のツイッターで、押印廃止の意図は行政の手続きハンコに限ったことで「ハンコ文化は好きです」と述べている。しかし、言葉の独り歩きで風評被害が広がらないかの不安が尽きない。田中さんは首相官邸に窮状を訴えるメールを送った。

 創業者の祖父、二代目の父親がハンコを彫る姿を見て育ち、大学を卒業して22歳で家業を継いだ。実印づくりは特に思い入れが強く、「代々譲り受けられていくものや、初任給を受け取る人が注文されることもある。一つひとつに心を込めている」。

 だからこそ「ハンコがいらないと言われてしまうと、そういった方々のことまで否定されてしまうようで悲しい」とうなだれる。

 行政手続き上の押印は削減され、デジタル化の促進が今後の主流になるとみられる。田中さんは「パソコンやスマホを使い慣れない高齢者に不便がないような方策、ネットセキュリティーなどの安全対策をしっかりしてほしい」と求める。

 ずっと変わらない職人技のハンコづくりを守りながら、若いころから敬う福知山ゆかりの明智光秀を生かした商品開発などで新たな販路拡大を探る田中さん。「ハンコ文化を大切にしていきたい」。改めて気持ちを引き締める。

 
写真=一つひとつ丁寧にハンコを彫る田中さん

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