50年ぶりによみがえる語り部・亀井イトさんの昔話 大江町で音源発見
2025年06月12日 のニュース
京都府福知山市大江町北原在住の女性による昔話の語りを約50年前に収録したカセットテープが、このほど見つかった。女性はすでに他界しているが、地元に伝わる話を方言交じりの優しい声で語っていて、長く受け継がれてきた昔話を後世に伝える貴重な資料となりそうだ。
女性は明治28年(1895)に、北原で生まれた亀井イトさん。婿養子をもらい、ずっと北原の地で暮らした。昔話の多くを父母や親族らから聞き、いろいろな人に語り継いできた。
イトさんが語ってきた昔話は、1978年に出版された本「大江のむかしばなし」などに収録されていて、昔話の語り部の一人として知られていた。
以前からイトさんのことを知っていた大江町在住の美術家、新井厚子さん(66)が、イトさんの実際の語りを聞いてみたいと思うようになり、親族や市役所大江支所など多方面に、音源が残っていないか尋ねた。イトさんのひ孫にも聞いたところ、実家にカセットテープがあったはずと思い出し、探してすぐに発見された。
新井さんはそれを借り受けたが、テープは音質が悪かったため、音楽一般などを専門分野とする福知山公立大学の橋田光代准教授に依頼し、データ化して聞きやすくしてもらった。
昔話は、お殿様が登場する「ふちがとれた」、おならにまつわる「二度の恥」、キツネにばかされる「狐のへっぽん返し」などがあり、17話ほどを収録しているとみられる。「おといたら(落としたら)」や「めげる(壊れる)」など豊かな方言も、端々に聞くことができる。
録音した年代は1976~78年ごろで、イトさんが80代前半ぐらいの年齢の時と思われる。テープには語りのほか、御詠歌も入っている。
みすずフェスタで一般に公開
新井さんは今回見つかった貴重な音源を、多くの人たちに聞いてもらおうと、7、8両日に大江町二俣三の旧美鈴小学校で開かれた「第3回みすずフェスタ」の文化展で、音源を繰り返し流した。
北原の集落や祭りなどを捉えた写真をスライドで見せながらの公開で、カセットテープの写真も掲示した。
録音された語りを聞いた、小中一貫教育校・三和学園の三和創造学習地域講師、吉田武彦さん(66)は「こうした貴重な民俗文化を活用して、今の人たちにその良さを教えたり、後世の人たちに伝え、その価値を判断してもらうことも必要と思います」と話す。
新井さんは今後、テープに収められたイトさんの昔話をはじめ、北原周辺の地域に残された文化についてさらに詳しく調べ、企画展などで発表したいとする。「方言についても今はあまり使われなくなった言葉が多く、貴重な民俗文化の遺産なので、掘り下げて研究していきたい」と意気込んでいる。
写真上(クリックで拡大)=発見されたイトさんの昔話の語りを収録したカセットテープ
写真下(クリックで拡大)=みすずフェスタの文化展で、イトさんの語りが流された