捨てられた子猫11匹〝命の警鐘〟 問われる飼い主のモラル
2025年05月29日 のニュース
■市は動物愛護の新制度へ準備 不妊・去勢費の補助■
飼い主のいない猫を巡る問題の解決へ向け、京都府福知山市は今年度から不妊・去勢手術費の補助制度創設に向けて準備を進めている。そんな矢先の5月、生まれて間もない子猫11匹が市内に遺棄される事件が発生。命を軽んじる行為が現実のものとして突きつけられた。捨て猫をめぐる現状と、市の取り組みを追った。
■ペット遺棄は犯罪 トラブルの元にも■
5月上旬、生まれて間もない子猫11匹が、かごに入れられた状態で市内の人目につく場所に捨て置かれた。中にはへその緒が付いたままの子猫もいて、か細い声で鳴きながら弱々しく身を寄せ合っていた。その後、捨てたであろう飼い主が現れることはなかった。
猫などの愛護動物を虐待したり遺棄することは、「動物の愛護及び管理に関する法律(動物愛護管理法)」に違反し、罪に問われる。みだりに傷つけたり殺したりした場合は5年以下の懲役または500万円以下の罰金。遺棄した場合は1年以下の懲役または100万円以下の罰金が科される。
京都府生活衛生課によると、迷い猫や遺棄された猫は管内の保健所で引き取られ、数日間公示されたあと、京都市内の京都動物愛護センターに送られる。その後、場合によっては殺処分となる。
2019年~23年の京都市を除いた府内の猫の引き取り件数は年間約100匹~230匹で推移しており、各年全体の7割以上が所有者不明の猫だった。
また、メスの猫は1年間に15匹~20匹の子猫を産み、子猫は半年間で次の子を産めるようになるため、理論上、猫は1年半で約60匹増加することになるという。猫が増えると、ふんや尿による悪臭の発生▽ごみや花壇を荒らす▽住居などへの侵入といった地域問題につながるほか、縄張り争いによるけがや交通事故死の増加、猫同士の間で病気がはやるなど、最終的には猫にとっても住みにくい環境になる。
同課は「猫に限らず、動物を飼う場合は最後まで責任をもって飼うことが飼い主の義務です。適正な飼育が困難になった場合でも、繁殖防止の措置をとることが必須」と警鐘を鳴らす。
福知山市内で保護猫活動に関わる50代女性は、身寄りのない猫が見つかっても、全ては救いきれないと肩を落とす。「猫を一生養うには約200万円が必要と言われ、負担は大きい」と話す。終生飼育を大前提とした上で、「やむを得ない事情で飼えなくなったという話はある。そうしたケースに寄り添う制度があれば」と願う。
■「野良猫に餌を与えないで」■
福知山市は、毎月発行の広報紙「広報ふくちやま」に、昨年の3月号から猫に関する相談先を記載したところ、問い合わせが増加した。主な内容は野良猫への無責任な餌やり、それに伴うふん尿トラブルなどだった。
これまでは、野良猫に餌を与える人の家を訪ねて啓発を行うことが主だったが、動物愛護と地域の環境改善の観点から、「動物愛護推進事業」の今年度予算を前年度から約30万円増の約150万円で計上。このうち20万円を、飼い主のいない猫の不妊・去勢手術への補助金として組み込んだ。
現在は、獣医師や専門家などとも協議しながら制度設計を進めており、できる限り早い実施をめざしている。
市生活環境課は「おなかをすかせた猫を見ると餌をあげたくなる気持ちになるかもしれませんが、その行為が、結果として、より多くの不幸な猫を増やすことにつながるかもしれません。めざすべきは人と猫、両方にとって住みよい環境です。そのために今一度、猫への関わり方を考えてみてほしい」とする。
■責任を持った関わり方を■
猫の不妊・去勢手術への補助制度は、市にとって限られた財源の中で導入を決めた対策で、いわば〝最終手段〟だ。飼い主の責任で最後まで飼うことが当然であることに変わりはなく、野良猫への関わり方も見つめ直す必要がある。
人と動物が共に暮らしやすいまちを実現するため、一人ひとりの責任ある行動が求められている。
写真(クリックで拡大)=遺棄された子猫たち