万博のパビリオンに生まれ変わった旧中出分校、開幕前に記者が見学 河瀬直美さんにインタビュー
2025年04月13日 のニュース
「分断を明らかにし解決試みる実験場」
いのちのあかしのコンセプトは「万博184日間、毎日が人類史上、はじめての対話」。施設内では来場者から選ばれる代表者が教壇のようなステージに立ち、330インチのスクリーンの中に現れる対話者と約10分間話す。そのほかの来場者はその対話を見守る。テーマは毎日異なり、初めて対面する2人が対話することで、世界中にある「分断」を明らかにし、解決を試みる実験場にする。
同分校は、その対話が繰り広げられる「対話シアター棟」になっている。コンクリートの基礎を設け、その上に平屋建ての校舎を再建築。柱などに残る傷や落書きもそのままにし、子どもたちが過ごした時間と記憶を受け継ぐ。
部材はできる限り活用し、腐食した部分は新たな部材を使っている。建築設計を担った周防貴之さんは「新しい部分も、校舎の一つの“履歴”として残る」と話す。古びた屋根瓦が特徴的で、昭和、平成の記憶を残しつつ、手を加えて「令和の校舎」となった旧中出分校が来場者を迎える。
内部は、車椅子席を含め150席あり、映画館のように段差がある階段状になっている。
折立中の南棟は来場者を迎えるエントランス棟(ホワイエ)に、同北棟は思いおもいに過ごすことができる森の集会所として活用される。
【河瀬さんにインタビュー】 「中出は美しい」子らは自信と誇りを
メディアデーの日、いのちのあかしでは、クリエーティブディレクターの井口雄大さんの説明や「世界中の人が、あなたの言葉を待っているとしたら、何を伝えますか?」をテーマにした対話の実演、エンディングムービーが流された。
パビリオン会場で、その様子を見ていた河瀬さんにインタビューをお願いすると、気に入っているという同分校の屋根瓦と通気穴がよく見える場所に案内され、気さくに話してもらえた。
同分校があった中出地区について、河瀬さんは「集落に入ったとき、美しいと思った」といい、華やかな会場にある生まれ変わった校舎の姿を見て、「みなさんが暮らす山里が素晴らしいと再発見してもらい、子どもたちには自信と誇りを持ってほしい」とメッセージ。
また、河瀬さんに招かれた三和町の住民ら20人が5日、テストランとしてパビリオンをひと足早く見学した際、小学生から手紙が届けられた。それを読み、「校舎の記憶とともに、私というものを子どもたちの記憶に入れてくれたことがうれしい」と喜んでいて、「福知山からぜひ来ていただき、一緒に“子どもたちに渡す未来”を考えていきたい。会場で待っています」と来場を呼びかけた。
シンボルツリーのイチョウの木 夢に出てきて移植を決断
パビリオンの中心には、分校にあった推定樹齢100年、高さ12・5メートルのイチョウの木が移植され、シンボルツリーとして存在感を放つ。当初は伐採される予定だったが、河瀬さんの夢にイチョウの木が出てきて「切らないでほしい」と言ったことで、移植を決断したという。
昨年10月に運び込まれ、分校にあったときと同じ方角に合わせている。そのイチョウは春を迎えて芽吹き始め、「いのち」が守られたことを実感できる。
テストランで分校を見学した中野楓さん(30)=中出=は閉校前の最後の1年間を通った。「分校での1年間が一番楽しかった記憶があります。パビリオンで活用された分校を実際に見て、面影も残っていて、とても誇らしかったです」と喜んでいた。
三和町中出、西松、田ノ谷地区の1、2年生が通っていた同分校。昭和5年(1930)に建てられ、平成14年(2002)に閉校し、ひっそりとたたずんでいたが、令和に新たな「いのち」を吹きこまれたパビリオンとして、10月13日までの期間中、脚光を浴びることになる。
※「瀬」は「頁」が「刀」の下に「貝」
写真・上(クリックで拡大)=対話シアター棟とイチョウの木を背景に撮影に応じた河瀬さん
写真・中(クリックで拡大)=部材はできる限り活用した
写真・下(クリックで拡大)=ここで毎日、初対面の2人が対話を繰り広げる