花粉症に苦しむ人たちの救世主 府緑化センターで次世代スギ増産
2023年01月02日 のニュース

日本気象協会のスギ、ヒノキの花粉飛散予測によると、京都府の今春の飛散量は昨年や例年に比べて「多い」。花粉症は日本人の3人に1人が悩む国民病といわれ、くしゃみや鼻詰まりなどの症状が出る。医療の進歩で改善するようになってきたが、抜本的な対策は「花粉自体の飛散を減らす」こと。原因物質の代表格はスギ花粉。福知山市夜久野町平野の府森林技術センター緑化センターは、花粉をごくわずかしか出さない次世代品種「少花粉スギ」の種子生産に取り組んでいる。林野庁が発表するデータも参考にしながら、主任研究員の小川享さん(60)に取り組み内容や今後の見通しについて聞いた。
■人工林の45%はスギ■
日本の森林面積は国土の3分の2を占める。多くの動植物を守り、地球温暖化を防ぎ、災害を防ぐ役割も果たす。だが、物資不足の戦中戦後に資材や燃料として行き過ぎた伐採がされ、多くの森林が荒廃した。
その後、復興に向けた木材需要に応えるために、幅広い用途に使えるスギが次々に植林された。現在は森林の4割が人工林で、その45%をスギ、25%をヒノキが占める。

スギが花粉症の一因ということは、1960年代の研究で明らかにされた。体の免疫細胞が花粉に過剰反応するのが発症要因という。
少花粉スギの選定について小川さんは「早く大きくなり、品質に優れた品種の中から、花粉を出す雄花がどれだけつくかを5年間調べ、ほとんどつかないことで初めて認定されます」と説明する。
植林後25年から30年で花粉の放出を始め、樹齢100年ほどまで勢いが衰えない。戦後に植林されたスギは、すでに伐採期を迎えているが、安い輸入木材との競合で採算が合わず、多くが放置されてきた。花粉の飛散距離は数十キロに及び、浴びるのを避けるのは難しい。

■全国で改良品種は150種類近くに■
問題が深刻化する中、林野庁は1991年に少花粉スギの開発に着手し、5年後に初品種が誕生。現在150品種近くに及ぶ。
スギは春先に雄花と雌花を咲かせる。枝先にぎっしりとつくのが雄花。マッチ棒の先ほどの大きさで、この中に約40万個の花粉が入る。肉眼では見えないほどの小さな粉状の粒だ。
雄花をまったくつけない無花粉スギも20品種近く開発されている。しかし、これでは苗木を作る種子が採れず、挿し木でしか増やすことができない。

■スタッフ13人による人海戦術■
緑化センターには少花粉スギの採種園が0・39ヘクタールあり、2017年度から3カ年で1500本近くを植えた。 作業はスタッフ13人による人海戦術。球果(果実)が採りやすいように樹木の高さを1・5メートルに抑えた「低木仕立て」にしており、秋に採取した球果を乾燥させて、種子を取り出す。20年度に3・7キロ、21年度には5・5キロ、22年度には4キロ余りを採種した。新年度は0・27ヘクタール拡大し、さらに少花粉ヒノキ花粉の採種園も0・3ヘクタール造成する計画。種子1キロで約48ヘクタールの人工林が造成できるという。
全国ではスギ苗木生産量のうち半数が少花粉品種に置き換わっている。しかし、木材需要の伸び悩みなどで植え替えはわずかしか進んでいない。

■植え替え終わるには少なくとも30年■
センターで生産した種子も林業家に出荷しているが、小川さんは「すべてのスギが少花粉品種になるまで、早くても30年はかかる。それでも、国は花粉飛散防止液の散布で飛散を抑制する技術の開発も進めており、総合的な対策で花粉症に悩む人たちは徐々に減っていくと思います」と話す。
【写真】上から
・昨秋開いた少花粉スギ講座で説明する小川主任研究員
・枝先に雄花がびっしり付いた普通のスギ
・花粉が入る雄花がほとんどない少花粉スギ
・センターの採種園で、種子が入った球果を取るスタッフ
・枝にたくさん付いている球果