北近畿地域の「知の拠点」を目指し舵取り6年 福知山公立大井口学長が勇退
2022年03月30日 のニュース
【略歴】
福知山市出身。専門は歴史学。福知山高校、京都大学を卒業後、大阪外国語大学、京都府立大学で教鞭をとった。その後、府立大学長、府立総合資料館長などを歴任。
京都府福知山公立大学の井口和起学長(82)は、2期目の任期が満了する3月末で勇退する。2016年に公立化されて以降、公立大学法人の理事長も兼務。北近畿地域の「知の拠点」に向けて力を尽くし、新たな大学の黎明期を切り開いた。舵取り役を果たしたこの6年間と大学への思いなどを聞いた。
市との公私協力方式で開学した前身校の私立大学が、定員割れで経営難に陥り、賛否両論の意見があるなか、「市民の大学、地域のための大学、世界とともに歩む大学」を基本理念として、2016年度に公立大学がスタート。初代学長に就いた。
地域に根差した大学をアピール
まず、取り掛かったのは「地域に根差した公立大」に生まれ変わったとアピールすること。当初は市民から冷ややかな目もあったというが、「地域社会とともに発展するために変わったんだということをあらゆる機会で訴え続けた」。
さらに、新町商店街内にまちかどキャンパス「吹風舎」を開設するなど、市民に見える大学づくりに注力。大学関連の取り組みが両丹日日新聞を中心とした多数の媒体で取り上げられたことなどで、「大学が何をしているのか知ってくれるようになった」という。
大学認証評価不適合から適合に
「最初の大仕事だった」と振り返るのは、前身校の時に「不適合」となった認証評価機関による大学評価。開学直後から準備し、2年目に審査を受けた。わずかな指摘もあったが「適合」の評価となり、「ほっとした」と話す。
大学の柱は、学生が地域の人らと交流しながら、地域社会が抱えている課題と向き合う「地域協働型教育研究」。開学当初は地域経営学部の1学部体制だったが、5年目の2020年度には情報学部を新設し、文理連携による地域協働型教育研究を進めてきた。
「大事なことは入学定員を充足すること」だと、学生の確保に奔走。1学年の定員数は、初年度は50人だったが、2年目には120人、情報学部開設後は2学部で合わせて200人と増やした。その中でも6年間、定員を確保した。
財政面では、業務改善などを図り、支出の抑制に努めたほか、ハード面の整備費を除く運営費については学生数の増加に伴い、市の負担分を削減。学生数が700人を超える2022年度には、授業料や国からの地方交付税措置のみで運営できる見通しがついた。
心残りな部分もある。地域協働型教育研究について、「ある程度の形を作ることはできたが、地域課題を解決するといった成果がまだ市民に見せられていない」と振り返る。ただ「教育研究の成果は、数年ですぐに何かが見えてくるものではないので、もう少し長い目で見てほしい」と市民に呼びかける。
このほか、産官学の連携や附属機関の開設など、さまざまな取り組みを進めてきたが、いずれも「私の功績ではなく、教職員や学生も含めてみんなが新しい大学づくりに力を注いでくれたおかげ」と感謝する。
学生の住環境整備含め課題はまだまだ
「学生の住環境の整備など、まだまだ残された課題の方が大きい」と指摘。「最初は公立化したばかりということで、注目を浴びたが、人口減少が進んでいくこれからが本当の勝負。次の執行部が担ってくれることを期待している」と話す。
写真=大学への思いを語る井口学長