和紙人形に命吹き込み50年 96歳 制作意欲衰えず
2020年03月27日 のニュース
京都府福知山市東中ノ町のたばこ店店主、根本きくゑさんは、96歳になった今も創作和紙人形づくりに親しむ。制作歴は50年近く。福知山藩の大名行列や伝統芸能の福知山踊りなど、繊細で躍動感あふれる作品は今にも動き出しそうで、見る人を感動の世界に引き込む。これまでに手がけた主な作品を紹介する「創作和紙人形作り50年の軌跡」展が、同店隣接地に開設したギャラリー菊紫で開かれている。
きくゑさんは鹿児島県の生まれで、4人きょうだいの次女として育った。結婚して福知山に転入後、知人宅で目にした和紙人形に、幼い日に遊んだ千代紙などで作る花嫁姿の「姉様人形」を重ねた。
姑を送って一区切りがついた50歳のころ、店番の合間を縫って独学で和紙人形づくりを始めた。当初は、着物姿の女性が中心だった。
顔は描かない。「想像を膨らませて見てほしい」とのこだわりからだ。表情はないが、見る人からは「手足の角度や顔のうつむき加減で喜怒哀楽を感じる」と評価を受けた。
腕が上達すると、テーマは幼いころに胸に刻まれた「庶民の暮らしの光景」や「子どもの遊び」など生活感あふれるものに発展。箱庭風の大型作品づくりにも挑戦してきた。
針金や割り箸で組んだ軸に、綿で肉付けして仕上げるのが基本。着物にする色とりどりの柄の和紙は、東京都の専門店から取り寄せるのが常だが、綾部市の伝統工芸・黒谷和紙を特注したこともある。
制作を始めて7、8年後、店の一角にアトリエを構え、教室を開催。制作工程を紹介する本も自費出版した。やがて腕前は趣味の域を超え、福知山踊りの和紙人形が福知山観光協会の推奨土産品とされ、販売するようになった。さらに、全国推奨土産品にも認められた。
福知山市と長崎県島原市との姉妹都市締結時に記念品として寄贈した福知山踊りの光景の作品は、今も島原城に飾られている。たばこ販売組織が開く全国コンクールに、たばこのパッケージなどを使って出品した作品は、金賞や銀賞を受けた。
展示会場は約170平方メートルのギャラリーで、22日から約30点を並べている。大型作品の「大名行列」は、歴史に詳しい夫の元福知山史談会長、故・惟明さんに、並び順などの助言を受けた思い入れの強い作品。福知山藩の大名、朽木家の参勤交代時の大名行列を再現した。駕籠や持ち道具まですべて自作し、約90体の人形が長さ約5メートルにわたって列をなす。
「福知山踊り」は同店前で毎夏に開かれる櫓を囲んで輪踊りする浴衣姿の人たちを、人形約100体で表現した。このほか内裏雛やかるた取り、こいのぼり、嫁ぐ日などの作品が飾られる。
徐々に視力は衰えてきたが「これからも作品を作り続けたい」と制作意欲は変わらない。家族だけでなく、友人や商店街関係者らが自発的に手伝ってくれて展示会開催にこぎつけたことに感謝する。
「明智光秀を主人公にした大河ドラマが放送され、福知山城から御霊神社まで散策する人が増えました。ギャラリーはその途中にあり、気軽に立ち寄ってほしい」と呼びかける。
期間は来年4月末まで。四季に合わせた企画展を計画し、作品の入れ替えをする予定。見たい人は同店に声をかける。入場無料。問い合わせは次女の榮井さんへメールで。
メールはgallerykikushi@gmail.com
写真=生活感あふれる作品と制作した根本さん
写真=長さ5メートルある圧巻の福知山藩の大名行列