節分の鬼談義 災害と鬼 
日本の鬼の交流博物館館長 村上 政市

防災への願いをこめて

 昨年は、まさに「災」の年でした。台風23号で被害を受けられましたみなさんに、あらためてお見舞い申し上げます。年末には、インド洋の大津波の悲惨なニュースが入りました。早期警報システムの不備が、こうしたケタはずれの大きな犠牲につながったのでしょうが、日本でも、明治29年(1896)の三陸大地震の津波では、死者が2万人をこすという大惨禍で、よそごとではない思いがします。

 今年の節分の鬼談義は、防災への願いをこめて、鬼のルーツは自然の猛威であるという説を紹介しましょう。鬼のルーツについてはいろいろな意見があり、まだ定説はなく、一つの仮説ですが、説得力のある意見ですよ。

 現在のような高度な文明、発達した科学技術をもってしても、自然の猛威から逃れることはできません。大昔、災害を受けた時の被害は、それは大きいものだったことでしょう。

 身近な例として、福知山の洪水被害をみても、明治29年の水害記録「福知山町洪水ト水防築堤由来」(水害実況取調委員会編・芦田恵之助の文)には、目を覆いたくなるような様子が生々しく記されており、死者も200人を超えたといわれています。

 もっともっと大昔、暴風雨や雷、地震、津波、火山噴火にあった人々が、巨大な自然のエネルギーによって、すべてを破壊され、恐怖にさらされたとき、そんな自然の猛威を怪物のしわざと考えたのも無理からぬことだったでしょう。また、こうしたわかりやすい比喩(ひゆ)によって、防災の戒めにしようとしたのかもしれません。

 日本の怪物や妖怪の多くは、江戸時代につくられていますが、遠い古代からのものとして、鬼と天狗、それに竜があります。鬼の姿をした雷が雨を降らせ、雨は大蛇のように地上を這い流れ、また竜となって天へ昇る。山と天空の境には天狗がすみ、大きな団扇(うちわ)で風を起こすと考えたのですね。

鬼の起こりは雷神

 鬼の成立の契機を自然災害ではないかとする説を提起した近藤喜博は、その著書「日本の鬼」(昭和41年刊)の中で、こうした災害をもたらす自然現象の中でも、古代人たちは、特に雷に恐怖を感じていたのではないかとして、「延喜式神名帳」(平安時代の神社一覧)の神社の中に、雷神をまつる神社が非常に多いことをあげ、雷神が鬼の成立に大きな影響を与えたのではないか、と述べています。

 この本の中に、全国の雷神をまつる主な神社が列記されていますが、京都では、賀茂別雷(わけいかずち)神社(上鴨社)、賀茂御祖(みおや)神社(下鴨社)と並んで福知山の天照(てんしょ)さんこと天照玉命神社の名があげられていることが注目されます。そういえば、この天照さんは、古来、この地方きっての雨乞(ご)いの神として信仰を受けています。祭神の天照国照彦天火明命(あまてるくにてるひこあまのほあかりのみこと)は、海人(あま)族の祖神ですが、この海人族が竜神信仰をもっていたことと関連があるのかもしれません。

 民衆たちは、雷を「神鳴り」とか「いかずち」と書きあらわして雷に神を感じていますし、その雷を、鬼が太鼓を背負う姿に描いているのはご承知のとおりです。また酒呑童子物語で、源頼光が正式名である「ヨリミツ」でなく、「ライコウ」と呼ばれているのも、雷の愛称である「雷公(らいこう)」をもじったものといわれています。

 雷を恐れたのは日本だけではなかったようで、ヨーロッパでも、ギリシャ神話のゼウスをはじめ、雷神には最高の神格が与えられています。中国でも漢代の墳墓に雷神が描かれていますが、その姿は猛禽(大きな鳥)で、三本爪、毛髪を逆立たせ、大きな口をあけた姿に描かれています。空をかけめぐる超人的な姿で異界とこの世を媒介するものと考えたのでしょう。

 古代人は、オニとカミを一体的なものととらえていたのですね。オニは隠(おん)、カミの語源は隠れ身(かくれみ)といわれます。時代がたつにつれ正と負、陽と陰に分化していったのでしょう。

鬼はニワトリが嫌い

 今年は、昔の暦でいうと「乙酉」(いつゆう=きのととり)の年に当たります。酉はニワトリですね。ニワトリというと、今では卵を供給してくれる便利な鳥ぐらいに思われていますが、昔は夜明けを告げる縁起のよい鳥だったのです。

 実は、鬼はこのニワトリが大の苦手なのです。昔話をみても、鬼があらわれるのは真夜中、鬼は闇の世界の主人公なんです。夜明けを告げるニワトリが鳴くと、鬼があわてて退散する話は多いですね。ヨーロッパでも、ニワトリは闇の悪霊を追う鳥とされています。風見鶏も災を防ぎ天気を告げますね。

 「光は闇の中から」。何となく不安で、閉塞感が漂い、暗さを感じる世相ですが、今年こそトリ年にあやかって、夜明けを告げる年となってほしいものです。節分の一夜、童心にかえって、暗闇に向かって豆を投げつけてみませんか。「福は内、鬼は外」、災転じて福の年となりますように。


大江山 鬼伝説 節分と鬼、酒呑童子を語る
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