節分特集 鬼は生きている−鬼は煩悩の化身 
日本の鬼の交流博物館館長 村上 政市

鬼は外

 「福は内、鬼は外」。このかけ声には、しあわせになりたい。わざわいから逃れたいという素朴な願いがこめられています。自分自身の心の鬼を払いたいという思いもひそんでいるような気がします。
 また、この短いかけ声の中に、鬼とは何なのかが語れられています。鬼は福=しあわせの反対のもの。人にふりかかる、いろいろな災厄を、鬼のしわざと考えたのですね。
 節分の鬼は、まさに、そんな疫病や災厄のシンボルですね。逆の言い方をすると、節分の鬼は、人の災厄を肩代わりしてくれる気のいい鬼たちなのかも知れません。

鬼は隠

 平安時代「和名抄」に、「おには隠」とあります。「隠はおん」。目に見えないもので大原神社の節分す。清少納言も「鬼は目に見えぬぞよき」と言っています。また、万葉仮名で書きあらわされている万葉集では、鬼という字を「モノ」とか「シコ」とよんでいます。今でも、「あやしいもの」とか「もののけ」などと言いますね。目に見えず、人にわざわいをもたらすもの、それが「モノ」。鬼のルーツは、「モノ」だったようです。
 節分の豆まきは、室町時代の中頃から行われていますが、もっぱら、暗闇に向かって豆をまいています。昔は、「オニオドシ」とか「オニヤライ」と言う、一種のまじないをしていました。節分になると、柊(ひいらぎ)の小枝や、鰯の頭、ネギなどを玄関にかざすのです。今も続けておられる家があったら貴重なものです。是非続けて下さい。これは、トゲや臭いで鬼の侵入を防ごうというわけですね。追うというより防ごうとしています。鬼を姿のないものと見ています。

鬼門

 目に見えずこわいもの、これほど不気味なものはありません。今でも新型肺炎や狂牛病など、目に見えぬものにおびえています。そこで、人々は鬼を目に見えるものにしようと考えました。陰陽道(おんみょうどう)で、鬼は鬼門(きもん)から出入りすると考えられていましたが、鬼門は北東の方向、昔は丑寅(うしとら)の方向といったので、牛の角(つの)、虎の皮のふんどし姿の鬼となったわけです。人がふんどしをしなくなると、鬼もパンツをはくようになります。

鬼は神か妖怪か

 日本の鬼は、時にナマハゲのように神を思わせ、酒呑童子のように人のようにもなり、醜悪怪異なオバケともなります。そんな鬼の特徴をよく示しているのが「こぶとり爺さん」の鬼です。鬼はコブをとるという超能力をもっているのです。そして、よいお爺さんのコブはとってやる。悪いお爺さんにはコブをくっつける。昔の人は、鬼は人の心次第で、恩恵も与えてくれるし、懲罰もあたえるとみていたのでしょう。多神教国・日本ならではの鬼であり、欧米の悪魔と大きく違う点です。

鬼は煩悩の化身

 日本の鬼を多彩にしたのは仏教です。餓鬼、鬼子母神、夜叉(やしゃ)など、インドの鬼たちが、お釈迦さまと一緒に日本へやって来ました。それに、邪鬼(じゃき)や天燈鬼といった鬼も生まれます。仏教では、鬼を煩悩(ぼんのう)の化身(けしん)とみています。また、地獄の鬼は、日本の鬼を非常にこわいものにしました。鬼婆は地獄の奪衣婆(だつえば)が原型のようです。不思議なことに鬼爺と言いません。何故でしょう。鬼は仏さまの引き立て役になりながら、人の心の中へは入り込み、多彩なものとなっていったのでしょう。

鬼は今も生きている

 鬼は昔の人々の共同幻想がつくり出したものですが、今も人の心の中に生き続けています。良かれ悪しかれ、鬼と言われる人は、いつの世にもいるのです。仕事の鬼もいるし、鬼才といわれる人もいます。
 鬼は遊びの素材となって暮らしに潤いをもたせる役割を果たしなが柳田村 猿鬼の宮(岩井戸神社)ら、ちょっぴり戒めの役割も果たしてきました。「鬼にならずに 人になれよ」と訴えてきたのです。いま、「ないもの」「欠けているもの」が見えない時代といわれます。価値観も多様化し、人の心がバラバラの不安な時代です。鬼を通して、目にみえぬものをみつめようとした先人たちに学びたいものです。
 大江山の周辺に、鬼伝説が定着したのは、厳しい山村にあって、伝説を共有することによって、地域の絆を強めあおうとしたからだと思います。

猿鬼

 最後に申年なので珍しい猿鬼を紹介しておきましょう。能登半島の先端近い柳田村です。大昔、猿のようにすばしっこい鬼がいて、結局神さまに、弱点の目を射ぬかれてやられてしまいます。そこを当目といい、鬼塚や猿鬼の宮があります。猿鬼の正体は何者だったのでしょうね。柳田村では、この猿鬼をテーマとして村おこしを展開中。特産のブルーベリーワインを「猿鬼ワイン」と名づけ、村民出資の会社もつくっています。能登へ旅行されたら、是非立ち寄ってみて下さい。


写真上:三和町 大原神社の節分風景。「鬼はうち、福は外」と唱える、全国でも珍しい追儺祭である
写真下:柳田村 猿鬼の宮(岩井戸神社)
大江山 鬼伝説 節分と鬼、酒呑童子を語る
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