待つ人がいる 喜ぶ顔がある

市の移動図書館 うぐいす号
 ワゴン車にたくさんの本を積んでひた走る。福知山市立図書館の移動図書館・うぐいす号。図書館まで足を運びづらい、遠い地域で暮らす人たちに読んでもらおうと、定期的に小学校や老人施設、公民館まで行き、本を届ける。利用する子ども、お年寄り、若いお母さんたちは、心温まる物語をたっぷり積んだうぐいす号を心待ちにしている。
 「おはようございます。福知山市立図書館のうぐいす号が参りました。どうぞご利用下さい」。目的地に到着すると同時に、職員がマイクを通して呼びかける。普段着のままの利用者が前回借りた本を抱えて、ワゴン車へと集まってくる。昔と同じ光景が、いまもある。


「あった、あった、この本や」
始まりは60年代 遠隔地の子らにと

 移動図書館の始まりは、御霊公園のところに図書館があった1960年代。元館長の橋本実さん(64)が、若手職員だったころに取り組んだ。
 「図書館に来にくい遠隔地の子どもたちにも本を読ませてあげたい」。そんな思いだった。夏になると、木箱に本を入れ、約300冊をジープやライトバンに積んで、子どもたちが集まる神社などに届けた。名称は「緑陰文庫」。青葉のかげで読書に親しむ。そのイメージで名付けた。「ぶるぶるに汗をかいて重い木箱を車に積んでいました」と、橋本さんは当時を振り返る。
 ジリジリ暑く、「ミーンミーン」とセミが鳴く。そんななか、子どもたちはむさぼるようにして読書にふけった。
 現代ほどレジャーが多様化していなかった時代。どの世代も、楽しみといえば読書だった。青年団、婦人会、子ども会などでは、本を読んで感想を語り合う「読書会」を催す団体も少なくなかった。
車の中には850冊

 市の鳥にちなんで命名されたうぐいす号は現在2代目。後部座席と荷台部分の扉がそれぞれはね上がる。中には木製の書架があり、時代小説、ミステリー、エッセー、児童書、文字が大きい大活字本など約850冊がそろう。
 巡回日は、第1から第4金曜と第2から第4水曜の計7回。1日に4カ所程度、1カ月で約30カ所を回る。場所は図書館から離れた三岳、金谷、佐賀小学校区など市周辺部が中心で、社宅、公民館、小学校、老人福祉施設、個人商店前など。大勢の利用者がいるところもあるが、1人だけというところもある。

若いお母さんら絵本を目当てに


車の中はずらりと本が並ぶ
 6月下旬、うぐいす号を追いかけた。まず、長山町の社宅。アナウンスを聞いた若いお母さんたち5、6人がやって来た。子育て真っただなかとあって、子どもたちの絵本が目当て。2人の小学生がいる赤塚純子さんは「図書館へ行くより随分楽です。ここでは1カ月間も借りられるのでありがたい」と話す。
 また、2人の子どもを持つ吉竹純子さんは2歳になる美沙紀ちゃんを連れてやって来た。「子どもは、本をたくさん積んでいる珍しい車という印象のようで、毎月来るのを楽しみにしています。私も本を読むのですが、図書館では子どもが騒がないように気を配らなくてはいけません。けれど、ここではそういった心配がなく本を選べるからいい」と喜んでいる。

小学校でも児童らに人気

 次に訪れたのは石原の遷喬小学校。先生が校内放送のマイクで拍子木を打ち鳴らして来訪を知

探す表情は真剣だ
らせた。休み時間。児童たちがどっと押し寄せる。「本がだぁ〜い好き」という子たちが、まっしぐら。「学校の怪談はどこ」「これおもしろそう」と騒ぎながら探している。4年生の中垣里菜さんと澤田三季さんは「いろんな本があって楽しい」と4、5冊借りた。「1カ月で読み切ります」という。
 最後は養護老人ホームの市立福寿園。玄関前に車を乗り付ける。入所者がゆっくりと歩いてやって来た。あらかじめタイトルと作家を書き込んだ紙切れを見ながら本を探す人も。「西村京太郎さんのはどこ」などといい、「あったあった」と喜んで本に手を伸ばしていた。「1冊の本を3回でも4回でも読みますよ」という人も。

利用者との触れ合いがうれしい

 担当は主に土田佐紀子さんと永本洋一郎さん。常連さんとはもうすっかり顔なじみのため、「久しぶり」「髪切ったんか」と気安く声を掛けている。「顔と名前はほぼ一致しています。その

土田さん(右)と永本さん
方の好きなジャンルまで分かるようになりました」と土田さん。担当して2年余り。「いつも来ている人が見えないと不安で、
携帯電話で家まで連絡するんですよ。短い時間だけど、利用者との触れ合いがあって楽しいです」という。
 永本さんは「冬場の大雪のときは、利用者から『きょうは雪が多いで来ないほうがええ』と連絡が入ることもあるんですよ。『これだけが楽しみや。これがなかったらおもろいことはない』とおっしゃるお年寄りの方もいて、続けなあかんなと思います」と話す。
 すでに退職した橋本さんは「遠くからバスで図書館へ行こうとすると、本1冊を買えるほどの運賃がかかる人もいる。しかし、これならただ。この取り組みを通して多くの人に図書館を身近に感じてもらえたら」と望んでいる。
 これからもうぐいす号は、多くの物語を詰め込んで、待つ人の元へ向かう。

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