ITは地域活性化に役立つか 全国の事例からアプローチを探る(1)

福知山を便利にするには?

 プロ野球にIT企業旋風が巻き起こるなど、ITは社会を急速に変えつつある。しかし福知山を見れば、ITで何か変わったかというと、そうでもない。果たしてITは地方を便利にするのか。地域活性化の役に立つのか。各地の事例からヒントをさぐってみよう。

キーワードは情報格差是正

情報発信−まず「出す」ことから

商店街が共同で情報発信周辺から消費者呼び戻す 「ささはたドッとこむ」

 ITで地域を活性化させた好例が1つある。客足が落ち込んだ複数の商店街が協力してホームページを作り、誘客に成功した「ささはたドッとこむ」。全国の商店街関係者が熱い視線を寄せている事業だ。

 取り組んでいるのは東京都渋谷区の幡ケ谷、西原、笹塚にある10商店街。「東京の商店街なら、ほっておいても客が来るだろうささはたドッとこむ」と思われがちだが、ある意味、福知山と似た環境にあった。「地元」の人口は約7万人。周囲に巨大な集客施設やエリアが生まれ、消費者が都心(新宿・渋谷)に流れてしまっていた。

 そんな中、商店街の中に事務所を構えていたコンピューター・ソフト開発会社の社長、長坂由佳さん(当時36歳)が商店主たちに呼びかけてホームページを開設した。1999年10月のことだった。地域の名前の頭文字から「ささはた」と名付けた。

 ホームページを作るといっても、対象が10商店街協同とあって、足並みをそろえるのが大変。長坂さんは「1つの商店街の中で意見を集約するだけでも大変ですが、それが10商店街ですから」と、当時を振り返る。まだ「インターネットってなんだ?」の時代。一から説明して作り上げていった。

 ホームページは単なるお店紹介だけでなく、地元で暮らす人たちに便利な情報を細々と提供した。親しみを持ってもらえるよう、掲示板などを使って商店主と利用客が交流できるようにもした。情報の更新を頻繁に行い、いつも新しい発見があるようにして、周辺部へ流れていた地元消費者の足を、再び商店街に呼び戻すことに成功した。

 「ささはた」での成功をきっかけに、長坂さんは地域ホームページ運営者同士で協力し合う事業もスタートさせ、各地を回るようになった。地方、中央を問わず全国で同じ課題を抱えた地域がたくさんあることを見てきた。「中心になる人材がいない。インターネットに詳しい人がいない。十分な活動資金がない。どこでも、いろんな制約はあるもんですよ。むしろ人材や予算がそろっている地域の方が少ない。大事なのは『出来ない理由』を挙げるのではなく、『どうやったら出来るか』を考えることです」。長坂さんは、きっぱりと言い切る。

基盤整備−ブロードバンド環境必須の時代

ブロードバンドが周辺部は使えず−福知山の現状

 情報を出す側だけが張り切っていたのでは、地域の活性化はのぞめない。受け手側が欲しい情報をいつでも簡単に入手できてこその情報化社会。ところが情報を入手する手段には、大きな地域格差が生まれてきている。

 都市部では光ファイバー回線やADSL回線が普及して、インターネットで動画を楽しんだりテレビ会議ができたりする「ブロードバンド」環境が整っている。福知山市でも中心部は光やADSLが利用でき、ブロードバンド環境にあるが、少し離れた周辺部では旧世代のISDN回線しか利用できない。福知山市中心部で利用できるADSLの一番速いコースは計算上の最大速度が40メガ(4万キロ)のサービス。実測で最大20メガほどのスピードが出ている。これに対してISDNは計算上の最大速度で64キロ。その差は歴然としている。若い世代がアパート探しをする際には、ADSLが利用できるかどうかを大きな目安の一つにしているほどだ。

合併に取り残されぬよう行政が光ファイバー敷設 宮崎県木城町

 情報過疎からの脱却に町を挙げて取り組んだ所が、宮崎県にある。児湯郡木城町は、行政が町中に光回線を敷設した。

 同町は、電話の空き時間を利用して放送を流す「オフトーク」通信を整備し、町内各戸に行政からのお知らせを流していた。しかし、これは町役場から一方的に伝えるだけで、住民側からの発信はない。「これからの時代は住民からも行政に声を届けてもらう双方向でなければ。それにはインターネットだ」。しかしインターネットを利用するには、町はあまりに条件が悪かった。

 県中央の山間部に位置し、主要国道からそれているため、町内には民間業宮崎県木城町者による光回線もADSL回線もなかった。一方で市町村合併協議を始めた周辺町は、主要国道が通っていることもあってADSLサービスが開始されていた。光サービスが来る計画の町もあった。新市になっても木城地域に民間のブロードバンドサービスが来る見込みはない。「このまま合併したら木城の情報格差は深刻なものになる」。

 町は自分たちで光ケーブルを町内に張り巡らすことにした。

 行政単独ではなく、民間の協力も得ながら取り組むことにし、NTTとタイアップ。経費を約5億6000万円に抑えることができた。それでも一般会計約40億円の町にとって大きな負担。国からの補助金3分の1、残りを過疎債でまかなった。

 回線を引くとなれば、次は利用者の開拓。事前に意向調査をしたところ、町の光回線を使いたいと答えたのは、町内約2000世帯のうち約400世帯だった。目標は600世帯。このままでは赤字続きになって、維持できない。2004年4月のサービス開始を目ざし、町の職員たちは町内一戸一戸を訪ねて歩くローラー作戦を始めた。

 山間の高齢者が多い町だけに「年寄りにパソコンなんて」との声が聞かれたが、「遠くにいるお孫さんとテレビ電話みたいに話ができますよ」などと説明。「あなたがパソコンを使えるようになるまで私たちが教えますから」と説得して利用者を増やしていった。

 役場の横に情報センターを造って臨時職員が常駐。お年寄りたちに講習会を開くと、毎回大好評となった。昨年4月から10月までの半年だけでもインターネット基礎講座59回▽インターネット活用講座11回▽ワード基礎・前半、後半計12回など。インターネットで会話が楽しめるインスタントメッセンジャーの講座を7回開いているのも特色。どの講座も毎回満員だった。インターネットを使って仲間と碁を楽しむ85歳のお年寄りも出て来るなど利用者の輪は広がり、契約者は昨年12月で673世帯。全世帯の3割に相当する。

 当時に担当をしていた渕上達也さん(現・税務課長補佐)は「線を敷くだけでなく、その後の住民のフォローがいかに大事かを実感しました」と話している。

世代間格差−だれもが「使える」ように

基盤整備と同時に高齢者対応も

 情報格差の是正を考える時、世代間の格差も大きな課題となる。特に高齢者。

 福知山市では、アオイ通りの、まちかどラボで福知山IT研究会が4年前から「パソコン・インターネットなんでも相談会」を毎月開いており、近年は年配者の利用が増え福知山IT研究会ている。

 パソコンの電源の入れ方から、ワードやエクセルの基本的な使い方、電子メールの送受信の仕方などで分からないことを相談しに行けば、研究会の会員がマンツーマンで教えてくれる。当初相談に訪れるのは青壮年層中心だったが、2年ほど前からは高齢の人が増え、いまでは年配者が中心になっている。

 会員の拝野圭造さん(65)=平野町=は「お年寄りも熱心ですよ。分からなかったことや、行き詰まって困っていたことが解決した時の喜びようは若い人より大きいですし、一つ分かると次々と新しいことに挑戦しようとされます。みなさんイキイキとパソコンに向かっておられ、生涯学習としても、高齢者のためのパソコン講座が福知山全体で充実されるといいですね」と話す。
 
高齢者が仕事でパソコンを駆使 徳島県上勝町の「つまもの」

 高齢者がパソコンを使って事業を成功させている例も、全国には出ている。徳島県上勝町の「つまもの」は、IT業界でとても有名。柿や南天、紅葉などの葉っぱ、つまり刺し身など料理のツマに使う「つまもの」をお年寄りたちが近所で集めて出荷しているのだが、市場の動向をパソコンを使って把握、高値の品を選んで出荷し、年間を通じて収益をあげている。その額は「お年寄りの小遣い」の域を超えて立派な「収入」となり、ビジネスとして成立している。 >>続き(第2部「ユビキダス」へ)


写真上:様々な情報を盛り込んだ商店街共同ホームページ「ささはたドッとこむ」
写真中:山間の町に光ファイバーが敷設される。現在では住民の3割が利用
(木城町提供)
写真下:年間を通じて多くの人がパソコンの使い方を質問しに訪れる福知山IT研究会の「なんでも相談会」

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