最終回 由良川

 土を載せたダンプカーが何台も行き交う。大江町関で金物小売業を営む多田富士男さん(40)はこう言う。「ダンプが走る音でうるさいが、堤防の工事が進んでいることが実感できる」。台風23号で、多田さんの店は1階の1・3mほどの高さまで水につかった。商品は台無しで、同町尾藤の住家も浸水した。

 長年の願い実現へ動く大江町の築堤工事急ピッチ

30年の整備計画が10年に大幅短縮

 国土交通省福知山河川国道事務所は、由良川下流域が大きな洪水被害を受けたことから、大江町や舞鶴市などで緊急水防災対策を進めている。これまでの由良川水系河川整備計画では、整備期間が30年間だったが、大幅に短縮し、10年間で築堤などの工事を完了させる。

 整備は由良川河口から福知山市筈巻橋下流までの31・8kmにわたり、ハード、ソフト両面で推進する。住家や公共施設などを短い堤防で取り囲む輪中堤などの整備は18カ所で、2009年度までに同町河守、千原、舞鶴市志高、水間の4地区で完成させる。

 河守地区では、すでに1982年襲来の台風規模に耐えうる暫定堤防が出来ているが、堤防高を現状より約4m高くし、台風23号や53年の「28水」のレベルにも対応出来るようにする。

 工事は今年度から本格的に始まり、築造が進んでいる。同町ではこれまで何度も由良川の氾濫(はんらん)で被害を受けてきた。住民からは幾度となく堤防を築いてほしいという声が上がってきたが、福知山市内のように長い「連続堤防」を築くことは、山と川が迫った地形の同町では、用地の確保が難しいとされてきた。

山からの出水で内水の問題も

 過去の水害では暫定堤防を超えて町内に水が押し寄せてきた。連続堤防ではないが、住民の願いをくみとった国交省の思い切った決断で輪中堤の整備が始まったことを、多くの住民が喜んでいる。

 1階が2mほど浸水した蓼原の写真館経営、新治貢さん(63)は「こうして行政が前向きに動いてくれることは本当にありがたい」と感謝。「子どものころは水がついて当たり前と思っていました」。新治さんの話によると、子どものころすでに堤防はあったが、浸水が絶えなかったため、堤防を高くする計画が以前から持ち上がっていたという。「おぼろげだった堤防整備の計画が現実的な形となった」と喜ぶ一方で、内水の問題も指摘する。

 蓼原では先の台風で山からの出水もひどく、新治さんの自宅前には大木が流れついたという。本川からの水を食い止める新しい堤防が完成したとしても、23号と同じ程度の雨が降れば、堤内地の河川が氾濫し同様の被害が出るのではと危惧(きぐ)する。

 河守の対岸の千原にはこれまで堤防はなかった。同地区でも今年度から築堤工事が始まった。地区内で農業に従事する松田利勝さん(63)のところでは、山手の畑や田んぼのほかの農地はすべて水につかったという。同地区では23号の前の21号襲来時も府道が冠水。程度に差はあるが、毎年のように水害に悩まされている。

 松田さんも堤防ができることを喜ぶが、地区内の農地の半分ほどが堤防の外(河川側)になることを懸念。「ほ場整備の計画もあり、取りあえず早く堤防を造ってもらい、区画整理を進めてもらわなければ安心して農業ができない」と不安をのぞかせる。

 今回の国交省の対策費500億円のうち3分の1近い約150億円が、府の直轄負担金となっている。府中丹西土木事務所(福知山市)の仕名野裕所長は「国交省には築堤や宅地かさ上げなどの整備だけでなく、関係河川や道路などについても、国の応分の負担を期待しているが、府としても輪中堤が効力を発揮できるように、管轄の河川や道路などの整備について優先順位を決めて取り組んでいきたい」と話す。国土交通省福知山河川国道事務所河川担当の諸留幸弘副所長は「今後も府や町と十分連携を取り、住民の意見も聞き進めていくことが必要」という。

 将来、再び台風23号と同等、あるいはそれ以上の台風がやって来る可能性はある。どんなに強固な堤防を築いても「100%安心」とは言い切れない。多田さんは町が進める区画整理事業で、近い将来、店を移転することになるが、「ほかの所に移っても安心はできない。大江町に住んでいる限り水に対する心配は一生続く」と話す。


写真上:河守地区で進む築堤工事
写真下:台風23号による水害で、蓼原地区の道路も水びたしになった(昨年10月21日、新治さん写す)

福知山のニュース両丹日日新聞