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両丹日日新聞2008年1月 2日のニュース

「新星」から「一流」へ 世界のトップパティシエ水野直己さん

0101mizuno1.jpg 天空をさまよう山の神・天狗(てんぐ)が主人公。魔物を追い払う羽団扇(はうちわ)で風を演出し、気品漂うハスが飾りつけられている。装飾用菓子のピエスモンテ。すべてがチョコレートだが、もはや芸術の域−昨年10月、フランス・パリで開かれた権威あるチョコレート工芸大会「ワールド・チョコレート・マスターズ」で、世界トップの座に輝いたのは日本人のパティシエ(洋菓子職人)だった。優勝候補の本場ヨーロッパ勢を抑え、アジア人としても初めての快挙。日本の洋菓子業界に新たな歴史を刻んだ。
 偉業を成し遂げたのは、福知山市出身でこの道10年の水野直己さん(29)。一番のポイントとなるピエスモンテは「自国の神話と伝説」のテーマに沿って仕上げた。「繊細。技術レベルも高く、完璧で、もちろん味もいい」と審査員が大絶賛した。
 持ち前の美的センスに、並々ならぬ努力で身につけた技が光る。新星のごとく現れ、そして日本を代表するパティシエの一人として、新たな夢に向かって羽ばたこうとしている。

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 1978年5月、水野さんは福知山市で生まれた。自宅は南本町の洋菓子店「マウンテン」。販売だけではなく、生地の仕込みや仕上げで、早朝から深夜まで働く両親の忙しさは幼心にもよく分かり、一人でスケッチブックに向かう日が多かった。
 
 美術の成績は、ずば抜けて良かった。南陵中学校では美術教諭から「将来は看板屋になるといい」と太鼓判を押された。絵は「プロ並み」との周りの評価。福知山商業高校(現・福知山成美高校)に進むと、他校の友人、知人からも頼まれて革ジャンやヘルメットに絵筆を走らせていた。
 
 「高校生のとき、進路について真剣に考えたこともなかった」と素直に語る。
 
 洋菓子づくりの道に進んだのは「東京に知っている洋菓子店がある。厨房で立ちっぱなしの仕事で、続けていくのは並大抵じゃないが、やってみるか」と、父の亘さん(60)に勧められたのがきっかけ。洋菓子に全く関心はなく、最初はためらったが、「自分に合わなければ、軌道修正すればいい。東京に行けばきっと天職が見つかるはず」と、上京を決意した。
 
■客のつぶやいた「幸せ」の一言で発奮
 
 修業が始まったのは高校を卒業した97年春から。勤務先は洋菓子の製造、販売をする東京の老舗「お菓子の家ノア」。自宅の洋菓子店も手伝ったことはなく、一からのスタートだった。皿洗い、掃除と下働きが続いたが、やがて下ごしらえを手伝わせてもらうことになる。
 
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 パティシエをめざす意欲をかき立たせたのは、来店客の声だった。カフェコーナーで焼きたての菓子を食べた客が、一口食べて「幸せ」とつぶやき、笑顔をみせた。「ぐっときました」。もっと腕に磨きをかけたいと、心底から思った。
 
 5年後、接客についても学びたいと、ギャルソン(フランスのウエイター)にあこがれて、東京の一流フレンチレストラン・パリジェンヌに転職した。
 任されたのはギャルソンでなく、デザートづくり。「一皿に自分の限界を出し切って心を込めて作る。そして、できたてのデザートをタイミングを読んでぎりぎりに客席に出す」。
 
 神経をつかうが、その緊張感がたまらなく、探究心が一層沸いた。

■本場の味や技を知るために渡仏
 
 半年後、本場のフランスに渡り、ロワール地方の菓子店、ル・トリアノンで1年半修業を積む。「歴史と伝統を誇る本場のケーキづくりを覚えたいと渡ったはずが、フランス語が通じずにパンの担当を命じられたこともありました。でも、すべての経験が今につながっています」
 
 帰国後、東京都の二葉製菓学校の製菓実習専任講師に就き、後進を育てるために活躍している。
 
■ドイツ選手権は4位 コンクールで活躍
 
 「ライバル同士が刺激し合い、腕を上げることができる」と、コンクール出場を一つの目標にする。
 
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 放課後や休日は製菓学校の厨房で洋菓子を試作。たゆまぬ努力は結果となり表れた。
 
 日本の製菓業界を代表する「ジャパン・ケーキショー東京」で04年から2年連続で銀賞に入り、05年にはフランスでの国際コンクール日本代表の選考を兼ねた「第13回内海杯・技術コンクール」で金賞に輝いた。
 
 「世界大会に出る」夢は06年に実現した。
 
 世界洋菓子連盟などが主催する「第7回マスタークラス世界選手権ドイツ大会」に日本代表で出場し、4位に入賞。それなりの達成感はあったが、自身にとって満足のいく結果ではなく、「次こそは優勝を」と意欲を燃やした。
 
 そのチャンスは、早くも1年後に訪れた。世界最大のチョコレートメーカー・バリーカレボー社(本社・スイス)が主催する「ワールド・チョコレート・マスターズ2007」の国内予選で、独創的な味のコンビネーションや丁寧な仕上がりが評価されて優勝し、フランスでの決勝大会への出場権を得た。
 
 「先輩を納得させないと、世界は見えてこない」。日本洋菓子連合会公認技術指導委員長の大山栄蔵さん、日本を代表するパティシエの一人の和泉光一さんらからアドバイスを受けた。予選で高く評価されたピエスモンテの作品に「天狗じゃなく、ピノキオみたいだ」「躍動感がない」と厳しい指摘を受け、本番に向けて連夜調整を図った。睡眠時間はわずか2時間という日が続き、体力はもう限界に近かった。
 
■本場ヨーロッパ勢ら20カ国が集った決勝
 
 決勝大会の顔ぶれは、本場のスペイン、フランス、ベルギー、イタリアなどチョコレート先進国や韓国、中国など20カ国から選抜されたパティシエとショコラティエ(チョコレート職人)。2日間の11時間半で、事前に準備したチョコレートのパーツを組み合わせるピエスモンテをはじめ、チョコレートデザート、チョコレートケーキのアントルメショコラ、ひと口サイズのチョコレートのボンボンショコラなど6種類、90点の課題制作に挑んだ。
 
 ポイントが高いピエスモンテは高さ制限が2m以内。「欲張って大きくすると壊れやすい。冒険するより、まず完成度を高めたい」と、高さ1・3mにまとめた。天狗を選んだのは、指の一本一本までを表現し、躍動感を持たせたかったから。透明感さえ感じさせるハスの花びらは、ホワイトチョコレートに赤の色粉を吹きつけ、ところどころに緑を入れることでリアルに仕上げた。
 
 「一番気を使ったのはチョコレートによるパーツの接着。融けて全体が崩れてしまわないように温度管理を徹底し、継ぎ目が見えないように丁寧に作り込みました」。本番前の連夜のトレーニングで疲れが出て体調は悪かったが、無我夢中だった。
 
 審査員は出場選手の母国の著名な20人が務め、味や技術、創造性を基準に審査された。水野さんは4つの部門賞のうちピエスモンテとアントルメショコラでそれぞれ部門賞に輝き、強敵のヨーロッパ勢を抑えて総合優勝。「ワールド・チョコレート・マスター2007」の称号を得た。2位はフランス、3位はイタリアの人だった。
 
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 深夜、東京の自宅で最初に優勝の知らせを受けた妻の庸子さん(28)は「最初『何だと思う』といわれ、しばらく考えました。次の瞬間に『優勝したよ』と聞かされて、驚きました」と振り返る。
 
■概念を覆す快挙に関係者ら今後も期待
 
 バリーカレボージャパンによると「今回の優勝は、チョコレート作りでは、アジアがヨーロッパよりかなり遅れているという今までの概念を覆した。日本は本場以上の実力があることを証明しました。前回の05年の同じ決勝大会で総合3位になった和泉さんは、これを機に一躍有名になり、テレビ、雑誌などで活躍されています。それほど、パティシエのキャリアに大きな影響を与える大会で、水野さんのこんごの活躍が楽しみです」と期待を込める。
 
■植村直己から命名
 
 父の亘さん(60)は大江町出身。洋菓子店を開業したのは長男の直己さんが生まれたころで、大江高校在学時の恩師で元校長だった故・吉宮孝太郎さんのアドバイスを受け、大江山と福知山から1文字を取って「マウンテン」の店名をつけた。直己さんの名前は、好きだった世界的な冒険家、植村直己の名を借りて命名。「世界に羽ばたくような人物になってほしいと願いを込めてのことでしたが、まさか、世界的なコンクールで優勝するまで成長してくれるとは思いませんでした」と喜ぶ。
 
 パティシエといえば今、学生の間で、将来就きたいあこがれの職業のひとつになっているが、「外から見るのと違い、とても地味で大変な仕事。子どもにはつらい目に遭わせたくない、好きな道を歩んでほしいと思っていました。でも、納得のうえで進んだ道で成果を挙げてくれてうれしい。材料、お客さん、自分自身を裏切らない洋菓子づくりを続けてほしい」と語る。母の千代枝さん(58)も同じ気持ちだ。
 
■師匠や先輩に感謝 経験を後進に伝える
 
 水野さんは「世界大会決勝は、とてもレベルが高かった。ミスの許されない厳しい戦いでしたが、積み重ねた練習のすべてを出しきることができたと思います。目標だった世界大会での優勝を果たせたのは、師匠や先輩らの支えがあったからこそで、次は私が恩返しをする番。今回の経験を後進に伝えていきたい」と口元を引き締めた。
 
 わずか10年で日本を代表するパティシエに成長したが、これからも努力の日々が続く。「素材に魂を込め、食べる人に夢や幸せを与える洋菓子づくり」が目標だ。
 
 
写真=上から順に、表彰式で総合優勝のトロフィーを高々と上げる水野さん▽天狗をモチーフに丁寧に作り上げ、部門賞にも輝いた装飾用菓子のピエスモンテ▽ピエスモンテに気品漂うハスを取りつける▽味や創造性が問われるデザートを盛り付ける▽ピエスモンテとともに部門賞に入ったチョコレートケーキのアントルメショコラ(日本洋菓子協会連合会・バリーカレボージャパン)
 

    

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